表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 過保護(最新号 令和6年11月)
衆議院選挙が終わりました。どの政党も過半数を取れませんでした。これから連立政権に向けて、議員さんたちは、大好きな、舞台裏の工作に励むことでしょう。
選挙の争点は、政治資金の不明瞭な集め方使い方でしたが、私の注目したのは、各党の国民へのバラマキの公約です。それぞれ味付けや衣は違いますが、国民にばらまく約束をして、票を貰おうという魂胆は丸見えです。選挙ですから関心を引こうという気持ちはわかります。しかしここ数十年、手を変え品を変えばらまいてきましたが、国民が豊かになったという実感がありません。
政党も、バラマキは経済効果が薄いし、財政赤字を拡大させるだけだと、よく理解しています。しかしバラマキはやめられません。例えば、民主党政権時代、子供手当てを創設しようとしたら、自民党は、1兆円を超える無駄遣いだと批判しました。ところが、自民党が政権を握ると児童手当と名前を変え、なんと今年度予算では1兆5千億円の支出が予定されています。
少子化が進み、少しでも子供を産んでほしい。子供を産んだら手当を出しましょうというのですが、効果は見られません。同様の取り組みをした諸外国でも効果はなかったようです。子育て中の家庭にはありがたいお金ですが、だからと言って、もう一人子供を産もうという気持ちにはならないでしょう。年収一千万円を超える夫婦が子沢山ということはありません。必要なのは、子供を育てやすい環境を作ることでしょう。施設を充実させ、保育士や先生の待遇をよくするほうに予算を使うべきです。もう一人子供を産もうという人が増えるかもしれません。
どの政党も減税を訴えていました。しかし、どの政党も減税で少なくなった税収をどう補うかは示しませんでした。有権者の関心を買うだけの提案には危なかしさがあります。実現するにせよしないにせよ、バラマキは票を集める以外の政策効果は少ないように見えます。むしろ必要な政策の足を引っ張っているようです。
バラマキは個人に対してだけではありません。私は詳しくありませんが、個人に対するより、企業に対するほうが大きなバラマキがあるようです。バラマキがなければ、やっていけないような企業が助けられています。その結果、新しい企業が育たないといわれています。
たしかにこの30年、ソニーやホンダは育ちませんでした。
かわいい子には旅させろといいます。
バラマキは別の言葉で言えば過保護です。企業も個人を過保護の結果、足腰が弱くなっているのが現在の日本です。
もちろん本当に保護が必要な個人や企業はあります。そういうところに集中的に資金を投じることに反対しているわけではありません。ところがどうも初めは集中的にやろうという構想が、いつの間にか総花的になってしまうのが問題なのです。選挙民の意思は大切です。しかし選挙民におもねるような政策は、結局は選挙民の不利益になることを、国民も政治家も肝に銘じるべきでしょう。
石川恒彦