表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 和食(最新号 令和7年2月)
銀行に用があって町にでました。用が終わって時分時でしたので昼ご飯を食べようと店を探しました。驚いたことに、和食の店がありません。ハンバーガー、らーめん、餃子、焼き肉などの店は複数ありましたが、そば、てんぷら、すし、ウナギなどの店は見当たりません。また、タイ、ネパール、トルコ、イタリアなどの料理店がありましたが、和食を看板にする店はありません。どうしたのでしょう。日本人は香辛料のきいた脂っこい食べ物が好きになってしまったのでしょうか。
わたしのような年寄りには、ソバとか焼き魚定食がありがたいのですが、見当たりませんでした。家族に苦情を言ったら、ソバは駅で、定食は昼間開いている居酒屋がいいと教えてくれましたが、ちょっと寂しい気がしました。
やっとのことで、回転ずしを見つけてはいりました。タブレットで注文すると、間もなく船に乗った寿司がやってきました。まあまあの味で、腹八分目に食べて1200円でしたから、満足と言えば満足でした。店に出ているのは会計の女性だけで、握る人は見えません。味気ない気がしました。おもてなしも和食の一部なような気がします。
和食は世界文化遺産だそうですが、あれは豪華な会席料理のことのようです。しかし、日本人が普段食べる、白いご飯、おみおつけ、すましじる、焼き魚に煮魚、納豆、豆腐、生卵に海苔、野菜の煮つけに佃煮、これこそが和食です。世界文化遺産の一部に組み込まれているのでしょうか。庶民が普段食べる食事の上に、豪華なご馳走があります。
ところが、今家庭では、朝はコーヒーにトースト、夜はカレーライスかトンカツ、コロッケ、チャーハンや野菜炒め、油の行列です。私たちは和食を食べなくなりました。
奈良時代の昔から、日本人の食事は貧しかったようです。記録に残っている貴族の食事を見ても大したことはありません。仏教の影響で、肉を食べなくなったといいますが、仏教以前から私たちの食事は粗末でした。
明治になって、文明開化で、肉を食べるようになり、すき焼きやトンカツが生まれました。すき焼きは和食でトンカツはどうも洋食と呼ぶようです。日本に西洋から入ってきた料理を日本風に発達させた料理を洋食と呼ぶようです。トンカツ、カレーライス、コロッケなどです。
日本人の舌の好みが変わってきましたし、外国からの影響もあって、和食といえども昔の味と違っているようです。そばつゆは今よりもっとからかったそうですし、天ぷらも、もともとはベチャベチャの衣だったのが、外国人をもてなすうちに、あのカラッとした衣が生まれたといいます。
和食の味が変わるのはやむを得ないないかもしれませんが、和食の人気が衰えるのは寂しい気がします。和食の質を保つには、普段から日本人が和食を食べていることが大切です。コーヒーとパンの朝食から御飯とみそ汁、出汁たまごの朝食に変えられないほど、日本人は忙しいのでしょうか。
そして街に出れば、和食食堂が見つかるのが、和食にとって大事に思えます。
石川恒彦