表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 集中治療室(令和3年1月)
11月18日に心臓の手術を受けました。一週間ほどで回復して、月末には、ベッドの中でこのページを更新できると心づもりしていました。ところがそうはいきませんでした。
麻酔から覚めた時は、比較的元気でした。集中治療室で、体中にカテーテルを挿入され、点滴針を両腕に刺され、なんだかわからないセンサーをいくつも付けられていました。生きているなと思いました。看護師に「石川さんは、手術の前も後も落ち着いていますね。珍しいんですよ」と、褒められました。
良かったのはそこまででした。二回続けて失神しました。よく死にかけて生き返った人が、きれいなお花畑を歩いていたと証言していますが、私の場合は、大きな果物屋の棚でした。赤や黄色の果物がきれいでした。おそらくそれを食べたら、あの世に行ったのでしょうが、二度とも看護師の「石川さん、石川さん」という声で目が覚めました。見ると、数人の方が、私の周りで、私の蘇生のためには働いておられました。
私の異常に気付くのが遅れたり、必要な人数がそろわなかったりしたら、おそらく私は生きていなかったと思います。心臓専門病院の集中治療室の手厚い看護に感謝、感謝です。
新型コロナウィルスが大流行中です。変な病気で、感染しても症状の出ない人がいる一方、感染すると急速に病状が悪化する人がいるようです。流行を止められないうちに、重傷者の数がどんどん増えています。重症者を受け入れている病院のベッドの空きがなくなりそうです。
部屋を用意し、ベッドを入れ、人工呼吸器などを備えた集中治療室を作ることは、今の日本では簡単なことです。問題は、そこで働く要員の確保です。私の集中治療室入院の経験からは、集中治療室で働くのは重労働です。そのうえ、知識や経験がいります。
新型コロナウィルスに対して治療法が確立していません。ある病院の看護部長が、テレビで話していましたが、この一年試行錯誤の連続で、やっと最近、看護法が見えてきたそうです。精神的につらい一年だったことでしょう。
肉体的にも大変です。伝染病ですから、厳重な防護服を着なければなりません。呼吸は苦しいし、汗だくになるそうです。それでも感染のリスクが皆無とは言えません。私が失神した時のように顔と顔をくっつけるようにして呼びかけなければならない時もあるでしょう。
私たちは、今回の流行を少し甘く見ていたのではないでしょうか。トランプ大統領の言うように、時が来れば、奇跡のように流行が収まると期待していた節がないわけではないでしょう。今は、ワクチンに期待しています。急造ワクチンが、どんな副作用を持っているのか、何か月の間免疫を維持できるのかはわかっていません。流行が長続きすることを覚悟して、対策をこうじるのが王道です。
ここは、無駄になることを期待しつつ、要員の養成に力を入れるべきです。全国の看護師や、理学療法士といった医療関係者に呼び掛けて、講習を受けてもらい、必要な時に、集中治療室に派遣できるようにすべきです。もちろん十分な給与と、流行がやんだ後の就職の保証が必要でしょう。
石川恒彦