表紙 > 住職より > 平成29年10月
十月の池上は、何と言ってもお会式です。万灯練供養が行われる十二日の夜が最も盛り上がり、何十万人もの人々が町を訪れます。翌十三日の朝、池上本門寺の大堂に於いて、日蓮聖人のお亡くなりになられた時刻に合わせて報恩の法要を行います。日蓮聖人の祥月命日ですから、十三日が一番大切な日なのですが、十二日があまりにも圧倒的に賑やかですので、小さい頃は十二日が何かしら大事な日なのだろうと勘違いをしておりました。池上の子供あるあるだと思うのですが、どうでしょうか。
小学生の頃は、学年×百円が毎月の小遣いでした。お会式の屋台で豪遊する為には、何カ月かの準備が必要です。当日、双子の弟から友好的にお金を預かって資金を二倍にして二人で町に出ます。大切な限りあるお金を無駄に浪費する訳にはいきません。可能な限り多くの屋台をチェックします。ポイントは一に値段、二に量でした。三十年前、飲食屋台の花形はお好み焼きと焼きそばだったと勝手に思っているのですが、値段は三百円か四百円でした。善人が三百円で頑張っているお店(当時の考えです)を記憶し、四百円で売っている悪人のお店(もちろん当時の考えです)は排除していきます。厳正なる審査でお店を選定し、行列に並びます。はたしてこれが最善だろうか、もっと良いお店があったのではないだろうかとウジウジしているうちに列は進みます。「一つ下さい」と言って、握りしめて汗まみれになった百円玉を三枚差し出します。子供にとって、三百円は大金でした。買うまでは鮮明に覚えていますが、味はあまり覚えていません。子供二人だけで何かを買う事自体が、冒険だったのでしょう。小学生の頃に比べて百倍の資金力がありますが、屋台巡りをする時間はありません。お会式の僧侶は忙しいのです。ただ、迷わずに大人買いを出来る様になった今、当時の興奮を再び覚えられるとは思いません。
石川龍彦