表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 異見(平成30年12月)
私たちは、空気を読んだり、長いものに巻かれたりするのが得意です。他人の強い意見、特に主流となっている意見に異議を唱えるのは不得意です。
先日、安倍内閣の閣僚が、自分の支持者の前で、消費税の引き上げに反対だと述べたといいます。消費税の引き上げは、今の内閣の重要課題ですので、反対意見は、波紋を呼びました。野党は、閣内不一致だといって問題にしようとしました。この閣僚が素早く発言を否定しましたので、いつの間にか問題は立ち消えになったようです。
私は、違和感を覚えました。ひとは、十人十色。どんなに仲の良い二人でも、一から十まで意見が同じということはありません。ましてや20人を超える内閣の大臣が、何から何まで同じ考えを持っているわけはありません。20余人の人がそれぞれ知恵を持ち寄って、熟議の上、政策を決定するのが理想でしょう。はじめから多数意見を忖度して、自分の見解を表明しないのは、民主主義ではありません。活発な意見の交換の上、決定されたことは、誠実に実行するのが、民主主義国家の組織です。もし、どうしても納得できなければ、その組織を去ることができます。
消費税の値上げは、議論のある課題です。とくに貧困層の負担を軽減しようと、方策を練っている段階です。値上げの延期も一つの選択肢だったのではないでしょうか。
国会は、安倍内閣が数の力によって、反対意見を押さえつけていると、野党は、常々不平を漏らしています。その野党が、内閣内の少数意見の表明を批判するのは、おかしいと思うのです。
日産自動車のゴーンさんの場合も根は同じです。ゴーンさんが日産をその剛腕で立て直したのは誰もが認めるところです。しかし、その成功ゆえに、ゴーンさんに反対意見を言えなくなったといわれます。いや、いたのですが、そういう人は遠ざけられたとも報道されています。問題は、反対意見を言った人を誰も擁護しなかったことです。
長年の独裁の弊害が表れ始め、有志がゴーン経営の問題点を探るようになりました。そこで見つかったのが、犯罪に近いゴーンさんの金銭感覚でした。ところが、それをゴーンさんに指摘して、改めるように進言できる人がいませんでした。安易に解決を司直の手にゆだねてしまいました。
ゴーンさんの逮捕容疑は、有価証券報告書虚偽記載というものです。最高10年の懲役という大罪です。ゴーンさんの背後には巨大なアメリカ弁護士事務所がついています。検察は、ゴーンさんが市場の判断を誤らせるために意図的に虚偽の報告をし、その結果、投資家が誤った判断をしたと立証しなければならないでしょう。無理筋です。
日産とルノーの間には主導権争いがあったといいます。その争いに公権力が介入したのです。ルノーはゴーンさんを擁護する名分があります。もし、日産内部で問題の解決を図り、ルノーにもそれが正しく伝わっていれば、今度は、脱税、背任、使い込みの疑いのある人物を雇い続けることはできないと判断したでしょう。
もとはといえば、日産に異見を大切にする文化がなかったからです。
石川恒彦