表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 情報の厚み(平成22年5月)
地方の方が都会に出てくるのは、そんなに苦に見えません。逆に都会の人間が地方に行くときは、何となく億劫です。何故なのかと、常々疑問に思っていました。
先日、法事があって、千葉県の大多喜に行きました。少し前なら、車で行ったのですが、地図を調べると、面倒そうなので、公共交通機関を使うことにしました。年のせいですね。いろいろ調べて、バスで行くことにしました。羽田と浜松町バスターミナルからの二系統のバスがあります。本数が少なく、法事に間に合うには、7時発のバスです。大多喜には9時に着いてしまいますので、法事には2時間もあります。それでも、大多喜のバス停は、オリブというショッピングセンターだとありますので、何とか時間がつぶせるだろうと、使うことにしました。
日曜の朝でしたが、乗客は15人ぐらい、快適にバスは走り、定刻に大多喜に着きました。快晴で、海の景色、陸の景色が楽しめ、これで、片道2000円は安いものだと満足でした。ところが、ショッピングセンターはまだ開いていません。どうしようかと、荷物を地面に置いてまわりを眺めていますと、後ろから声をかけられました。同じバスに乗っていた女性の一行で、大多喜駅はどちらでしょうと聞きます。わからないが、来る前に地図を見た記憶では近くでは無いようだったと答えました。彼女たちも、バスの方が便利と思ってきたのでしょう。
遠くを見ると、ファミリーレストランがありましたので、そちらで休むことにしました。パンケーキ3枚とコーヒー飲み放題の朝食で、380円でした。ちょうど全国紙の販売拡張中で、ただでゆっくり朝刊が読めました。時間を見計らって、タクシーを呼び、お寺に行きました。
法事は無事終わり、会食の時は、お酒を頂きました。車の運転をしないと余徳があると思いました。東京から車で来た人が、送ってくれるといいましたが、断って、バス停まで連れて行ってもらいました。さて困りました。次のバスまで、浜松町行きは一時間半、羽田行きは一時間十五分あります。今朝閉まっていたショッピングセンターに出かけました。
重いおみやげを持って、ほろ酔いで、あてもなく店をのぞいても、なにも面白くありません。朝入ったファミリーレストランに行きました。行列でした。やむなく、周りを歩きました。オリブの周りには、大きな駐車場のある、薬屋、洋服屋、日曜大工屋、金物屋などがありました。どこも駐車場を越さないと、店に行きつきませんので、入りませんでした。やっとバスの時間になりました。帰りは羽田行きです。牛久で乗り換えでしたが、乗り換え時間がずいぶんありました。
家に帰ってつくづく思ったのは、土地勘のないところに行くのは疲れるなということでした。そこで、冒頭の疑問に答えがひらめきました。情報の厚みの問題だと。
都会人が地方に出かけるときは、その目的地はいろいろです。今日は大多喜、次は大月といった具合です。目的地の情報は、新しいところに行くたびに得なければなりません。それに対して、地方人が自分の住んでいるところから出かける時、目的地が都会という場合が多いのではないでしょうか。都会は人口密度が高いし、行政でも、経済でも、都会に機能が集中しています。何度か都会に出かければ、情報が自然に蓄積されます。土地勘が生まれるのです。
さらに、交通手段の問題があります。ある地方から都会への交通手段は限られています。それを覚えれば苦も無く都会に行けます。それに対して、都会人が地方に行くときは、目的地がありすぎて覚えきれません。一回一回、新しい情報が必要です。
それが、物見遊山の場合はともかく、用事で出かける東京人の心を重くしているのではないでしょう。
石川恒彦