表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 過激派宣言(令和5年1月)
最近、経済の好循環ということをよく聞きます。企業収益が上がると、雇用や賃金が上がり、すると消費が伸びて、また企業の収益が上がるというのです。ところが企業収益は上昇しているのに、賃金は上がりません。ウクライナ戦争などの外的要因もあって物価が上昇しているのに、賃金の伸びは物価に追いついていません。消費が落ち込み、企業収益にも影響が出ています。
政治家は、経済の好循環のために、賃金を上げるように言います。財界の首脳たちも賃金を上げるよう、企業に呼び掛けています。しかし、政府にも財界にも、企業に賃上げを強制する力はありません。個々の企業も、賃金が上がって、消費が拡大することを期待しています。しかし賃金を上げるのは隣の企業だと考え、自分の企業は静観しようとしています。
国際的にみても、日本の賃金は停滞しています。OECDによれば、2021年の日本の平均賃金は39,711ドルで世界24位、1位のアメリカは。74,738ドル、韓国は日本より4位上で、42,747ドル。かっては一桁の順位を保っていたのですから隔世の感があります。
アベノミクスに原因を求めたり、日本の企業が努力して物価をあげなかったから低賃金でやっていけたせいだという人もいます。私は、日本の労働者が、賃金を上げるように、強力に求めなかったことが、いちばんの原因だと思います。特に、医療関係者、教育者、研究者、介護従事者、サービス業従事者など、生産とは違うが、社会の維持と発展に欠くことのできない貢献をしている人々の賃金の安さは驚きです。その人々が、強力に賃上げを要求しないのはもっと驚きです。
最近イギリスでは、看護師が待遇改善を求めてストライキをしました。雀の涙ですが、賃上げに成功したようです。アメリカでは、鉄道労働者がストライキを企画しました。驚いた政府が調停に乗り出し、解決に向かいました。
それに引き換え、日本の労働組合は、おとなしすぎるようです。だいたい組合組織率が低下して、力が足りないようです。組織率を上げようという努力も見えません。
戦後まもなく、「ダラ幹」という言葉をよく聞きました。労働組合の幹部が、組合費で飲み食いしたり、経営者と懇親を重ねて、労働者の権利がおざなりになり、ストライキなどを打つ勇気がなくなったとき、その幹部を「ダラ幹」と呼びました。今の幹部はなんと呼んだらいいでしょう。
企業が利益率を上げるには、労働者の賃金を削ることが、最も手早いやり方です。業績が上がらない、アメリカのIT企業が大規模な首切りをしているのが、いい例です。日本では、賃金を上げたら会社をやっていけないという主張もあります。本当でしょうか。適正な賃金を払えない企業は、存在価値がないように思えます。営利企業だけではありません。教師や看護師が満足する給料を払えない国は価値がありません。
古典的ですが、今や労働者が団結するときが来たと思います。労働組織率を上げ、ストライキ権を確立して、賃金を上げなくてはなりません。それが、好循環に寄与します。
石川恒彦