表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > ころたん(最新号 令和8年8月)
ころたん ころたんという名のメロンをご存じですか。家庭菜園用に開発されたメロンで、数年前に育てておいしいメロンを沢山食べました。メロンはウリ科の植物ですので、連作を嫌います。毎年は作れません。そろそろいいだろうと、今年の春に苗を6本買いました。
ころたんは、初期の手入れが面倒です。子ずるを整理して、孫ずるに実をならせるようにします。まあまあうまくいきましたが、何か病気でしょうか、6本のうち1本の葉が縮みはじめました、ほかの苗にうつってはいけないと、泣く泣く抜き捨てました。
他の5本は順調で、実を沢山付けました。夏に入るとずんずん実が大きくなりました。通りかかりの人々から、豊作ですねと、注目されるようになりました。
ところが、ある朝、畑を覗くと2本の株が萎れています。慌てて水をやりましたが、あくる日になっても、ますます萎れてきます。家に入り、ころたんの育て方のパンフレットを見ると、どうも実をつけすぎたせいらしいとわかりました。おまけに、水をやりすぎると成長が止まると書いてあります。がっかりしました。
数年前の成功体験がいけなかったと思います。あの時は、初めてのことですので丁寧に説明書を読み、その通りに手入れを怠らずにやりました。結果、大豊作でした。ところが今回は、記憶に頼って手入れをしたところがあり、見事な失敗になりました。何事も謙虚さが大切ですね。なにより、沢山採ろうと欲張り、実の間引きを怠ったのが最悪でした。
強欲は人を幸せにしないといいます。典型的ですね。
ところが強欲を貫いて成功を収めている人がいます。現在、世界一の金持ちは、イーロンマスク氏です。彼の資産と同じ額を稼ぐために、週に50時間、20歳から65歳まで働くとして、時給はいくらいるでしょう。ある計算によると、なんと時給3億円です。しかし時給3億円でも追いつかないでしょう。
彼は次々と新しい事業を立ち上げ、多くは成功を治めているからです。彼の強欲は金銭より事業の成功にあるのかもしれません。
経済学は、人々やその集団が儲けようと、それぞれが努力することによって、社会の進歩が生まれ、総体としての社会が豊かになると教えます。20世紀の初めには、小さな飛行機を作っていた会社が、もっと儲けようとして機体を大きく性能も向上させました。お陰で航空会社はより多くの客をより安い料金で運べるようになりました。機体会社も航空会社も大いに儲けました。私の学生の頃は、海外に行くという時は、船を利用するのが一般的でした。今では物好き以外はそんなことはしません。
20世紀は沢山の成功した事業を生み、その重役たちは、定期便など乗らずに、自家用機で移動しています。ところが一方で飛行機に乗るなど夢だという人々が生まれました。金持ちがますます金持ちになるのに比例して、ますます貧乏になる人が増えたのです。
識者によればその傾向は強くなる一方だといいます。将来、一握りの金持ちと大多数の貧乏人の世の中になったらどうなるんでしょう。金持ちが提供する製品もサービスも買う人がいなくなるということではないでしょうか。
ちょうど私のころたんの一株が実をつけすぎて枯れたようになるような気がします。
石川恒彦