表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 祭り見物(令和元年7月)
青森のねぶた祭りを見に行こうと計画しています。その観覧席の売り出しが6月29日の午前10時からでした。あらかじめ、どの席がいいか調べておきました。所用があって、少し遅れて、10時半からネットを開きましたら、もう良い席は予約でいっぱいでした。次善の席はどれがいいか迷っているうちにどんどん売れていくようでした。妻との並び席をあきらめて、あまり薦められていない席をやっと取れたときには、お昼になっていました。午後になって、どうなっているか様子を見ると完売でした。
ここのところ毎年、各地の祭り見物に行っています。困るのは、旅館です。普段、観光客が行かない土地で祭りが行われますので、祭りの前後はたいてい満員です。よい旅館は、旅行社がおさえているようで、半年前に申し込んでも、だめです。
旅行社の募集する団体旅行で行ったこともありますが、窮屈で、私の性にはあいませんでした。祭りのほかに、親切にも、いろいろ観光地を案内してくれますが、私の見たいこと、やりたいこととは、しばしば違っています。気に入った食堂で昼間から飲み続けたり、きれいな海岸で岩に腰かけてウトウトというわけにはいきません。
ただ、費用と手間を考えると、ずいぶん得そうです。もうすこし元気がなくなったら、募集旅行もいいなと思っています。
秩父の夜祭りに行ったときは、郊外のゴルフ場のロッジに宿を取りました。祭りへの送迎付きでした。秩父駅にはずいぶん早く着きました。昼の様子を見学しようと、荷物を預けたかったのですが、生憎どのロッカーもふさがっていました。当惑していると、若い子供連れの夫婦が、ロッカーの上に荷物を置いています。子連れですので、大きい荷物が二つです。大丈夫ですかと聞くと、多分と、笑っています。不安でしたが、私たちも彼らの荷物の横にカバンを置いて街に出ました。村芝居を見たり、山車を見たりして、夕方になったので、ロッカーに戻りました。カバンは無事で、私たちのカバンの隣にはさらに別のトランクがありました。日本はいいねと妻と語りながら、すこし幸せな気持ちになりました。個人旅行ならではの経験です。
おわら風の盆を見に行ったときは、ガイドブックでもネット上の案内でも、見物には一番よい場所といっている通りに行きました。すごい人出で、踊り手たちが来ても、全然情緒が感じられませんでした。少し落胆して、人通りの少ない道を駅に向かって歩いていくと、一団の若者たちが、踊っていました。人に見せるのではなく、自分たちのために踊っている姿は、何とも言えない良さがありました。おそらく、人気の出る前はこうやって踊っていたのだと感じました。これも個人旅行ならではの出会いだったと思います。
今回私たちは、観覧席を買いましたが、道をぶらぶら歩いて、屋台をひやかしたり、山車の後をついて歩いたりと、楽しみ方はいろいろあります。祭りによっては、外部の人間が山車を引いたり、踊りの輪に入ることを歓迎してくれます。
私の好きなのは、祭りを堪能した後、喧騒を離れて、かすかにお囃子の音を聞きながら、ほろ酔いの顔に夜風を受けて、ゆっくり歩く時間です。
石川恒彦