表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 庄内旅行と酒(平成31年1月)
12月初めに山形県の庄内地方を旅行しました。
わたしと妻は、JR東日本の「大人の休日倶楽部」に入っています。一年に3回、「大人の休日俱楽部パス」というのが発売されます。JR東の全線が、新幹線を含めて、四日間乗り放題で、1万5千円です。それを利用して、銀山温泉、酒田、鶴岡と3泊の旅をしました。
私は呑み助で、アルコールが入っていれば何でもいい口です。あまり酒の種類や銘柄を知りません。それでも、おいしい酒まずい酒はわかっているつもりです。ウォッカや焼酎のような蒸留酒でも銘柄により味が違います。焼酎は原料の違いで味が違うようですが、ウォッカは、ろ過材によって味が違うそうです。
何でも飲むといっても私の好きなのは、やはり日本酒です。それもぬる燗のお酒です。冷で飲む吟醸酒は、あまり好きではありません。
庄内は穀倉地帯で、良い米ができ、その米を使って、いろんな地酒が醸造されています。朝は飲みませんが、旅行中は昼夜必ず酒を注文します。どんな酒がいいか聞かれますが、銘柄がわかりませんので、辛口の酒をぬる燗でと注文します。すると、庄内ではぬる燗といってもどれくらいかと聞く店が多いようでした。そして、注文の酒を持ってくると、この温度でよろしいでしょうかと聞かれます。一口飲んで、いいお燗だね、というと安心してさがります。お代わりを頼むと、先ほどのお燗でよろしいでしょうかと聞いてくれます。東京では期待できません。
三日目の夕食の時、妻が変なことに気がつきました。「庄内では、必ず、お銚子を私のほうに置くわよ。主人にお酌をしなさいというのかしら」 そこで私も気がつきました。こちらでは、家内と一緒の時は、店の女性が私にお酌してくれません。老夫婦とはいえ、男女の中に別の女性が入り込まないようなのです。粋ですね。
庄内の人は、温和で親切です。お城のあった鶴岡、港町として栄えた酒田、どちらも十万人ちょっとの人口しかない小さな町です。大体、山形県全部の人口が、隣の宮城県仙台市におよびません。東京のような混雑したところから来たものには何かほっとさせるものがあります。
庄内の人が温和なのは、鶴岡城主酒井家の治世が比較的うまくいっていたせいもあると思います。江戸時代の大名家は、どこも財政が逼迫し、農民に負担をかけましたが、酒井家は、酒田の大商人、ことに本間家の助力を得て、財政を立て直すことができました。それが領民との関係がよかった遠因と聞きました。
もちろん、本間家が日本一の大地主といわれた裏には、沢山の「おしん」のような極貧の農民がいたに違いありませんが、それも、戦後の農地解放で、ある程度の余裕を元小作人たち与え、彼らを温和派に組み入れたのでしょう。
豊かで平和な庄内平野に、酒文化が発達したようです。それはもちろん、男優先の世界でした。今に残る、その面影の中で飲むことができ、私のように戦前生まれのものには、何か懐かしい思いを与えてくれました。
石川恒彦