表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > サンダルで飛行機(平成29年10月)
今度の海外旅行はサンダルで行く予定にしました。旅行には履きなれた丈夫な靴というのが常識です。それがそうはいかなくなりました。
今まで使っていた靴が水漏れするようになりましたので、新しいのを買いました。慎重に選んで、履き心地にも満足でした。靴に慣れなければと、それを履いて歩いてみますと、ちょっと指先に違和感がありました。店での感じと、道での感じはちょっと違いました。まあ慣れるだろうと、一週間ほど履いてみても、一向に違和感が取れません。それどころか、左足の小指の付け根が痛くなってきました。よく見るとタコができていました。むかし、軍隊で、新兵が靴を支給され、足に合わないと申告すると、足を靴に合わせろと、殴られた話を思い出しました。
血圧の薬をもらいに行ったついでに、医者に見せました。お医者さんは、一目見て、外科に行って切ってもらいなさいといいます。旅行が控えているというと、すこし考えていて、ちょっと待ってといって、階上に行かれました。まもなくコピーを手に降りてきました。ここのサンダルを試して御覧なさいといいます。ドイツ製のサンダルで、長時間履いていても疲れないといいます。
足が痛いのがかなわないので、医院からまっすぐに銀座へ行きました。サンダルを見ると足を乗せるところの周りが少し高くなっていて、前のベルトは調節できるようになっていました。タコに当たらずに履けるのを確かめて、ベルトを調節してもらって、買いました。サンダルとは言えない値段でした。それを履いて家に帰りました。良い具合でした。
そこで、サンダル履きで飛行機に乗ることにしたのです。少し前までは、サンダルで入ろうとすると、断られるホテルやレストランがありました。しかし、世の中全体が気取らなくなったせいでしょう、高級店といわれるところでも、気楽な服装で入れるようになりました。ほんの数十年前までは、飛行機に乗るということは、高級感にあふれた行為で、紳士たるもの、背広ネクタイ、ピカピカの靴で搭乗していました。今では、ジーパンにビーチサンダルの人も珍しくありません。日本より外国の方がくだけているようですから、サンダルで旅を通すつもりです。
もちろん万一のために、あの足に当たる靴と絆創膏をトランクに入れました。
車を運転しなくなってからは、もっぱら通信販売を利用しています。ただ、靴だけは、店で足を合わせて買わねばならないと、忠告されていたので、電車に乗って、靴屋に行ったのですが、失敗でした。若いころなら、それこそ、足を靴に合わせることができたのかもしれませんが、無理でした。
出発の朝がやってきました。目が覚めると雨でした。想定外でした。靴下をポケットに入れて、はだしでサンダルを履いて出かけます。
行ってきます。
石川恒彦