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隠居からの手紙

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朝の挨拶

  妙見堂の朝勤に車で行くようになって2年になります。もともとは111段の階段を登って行っていたのですが、寄る年波、一息に登れなくなりました。3度は休み、お堂に上がると息を整えるのにまた時間がかかります。もう少し前から自動車にしようと思っていたのですが、ペルーのマチュピチュ遺跡に行く計画があって、そこは坂のきついところと聞いていたので、訓練のつもりで、無理をして登っていました。無事帰って来た時から、車で行くことにしました。

  歩いていた時は、人と会えば挨拶をかわせましたが、今は一方的に観察するだけです。
車に乗って、最初に見かけるのは、近所の寺の住職夫妻です。いつもニコニコ手をふってくれます。朝勤を終えて、かなり遠くまで散歩に行き、そこで、いわゆる、モーニングを食べて帰ってくるという噂です。
悪くはない習慣ですね。私も家内がもし朝食作りに大変になったら、マネをしてもいいなと思っています。

  次には、すごく格好のいい老人がやってきます。がっちりした体格で、顔は厳つく、姿勢正しく、脇目も振らずに歩いてきます。着ているものも大変趣味のいいものです。

  そして、本門寺の広い参道に曲がりますと、4,5人の女性が子犬を引いておしゃべりをしています。
道の真ん中です。車が近づくと面倒くさそうに脇に寄ってくれます。そのうちの一人は、うちの檀家ですが、こちらが見ても、決して目を合わせることがありません。

  彼女たちを過ごすと、石屋の女房が犬を連れてやってきます。だいぶ年を取りましたが、なかなかの美人で、にっこり笑って手を振ってほしいのですが、そういう性格ではなく、軽く頭を下げて、行ってしまいます。

  本門寺の切り通しの坂を登ると、途中に左に上がる石段があります。そこで、毎朝、かなりの老人が自己流の体操をしています。バンザイをしても、手も足もまっすぐになりません。その人がゆっくりと後ろに反ります。一つ間違えれば、道に落下しそうです。私はここでは思い切り減速しています。

  坂を登り切り、右に曲がると本門寺の大堂の裏に出ます、そのまま、まっすぐ進むと下り坂になります。
そして、突き当りをまた右に曲がります。また登り坂になります。この丁字路で恰幅のいい男性にあいさつされます。足を止めて腰を曲げて挨拶されるので、こちらも頭を下げます。ところがここは丁字路です。
人や車がしばしば飛び出してきて、注意を紳士に向けていた私はハッとすることがあります。ここも要注意場所です。

  坂を登り始めると、ほとんど毎日、前方に4人の男女が横一列になってになって、坂を登っています。
かなり派手な運動着を着ています。朝のいい空気の中を車で走っているのが少し後ろめたい私は、ゆっくりと追いつきます、すると彼らは両側に分かれて、かえって頭を下げてくれます。

  五重塔を回って妙見堂参道に出ます。向こうから後ろ向きに歩いてくる人がいます。耳が大変いいようで、私が彼に気がついたときには、かれは、後ろ向きのまま道の横によけ、私に頭を下げます。

  妙見堂の裏の駐車場で車を降ります。少し前までは、その時、二人連れの女性が、小さな声でおしゃべりをしながら通ったのですが、この頃見かけません。よく話すことがあると思えるほど、途切れなく何か言っていました。うるさいババさまたちだと思っていましたが、いなくなると心配です。

  お経を終わって、帰りにもあいさつを受けます。車の中の私に頭を下げる人の中には、私の記憶に全然ない人もいます。どうやら、私が僧形をしているというだけで、頭を下げてくれるようです。
年を取っても一向に人間が向上しない私は、申し訳ない気持ちでいっぱいです。ロボット学者が集まり、ロボットで代用できない職業を考えた時、まず、お坊さんが上がったといいます。
科学万能に、人びとはひそかに疑問を抱いているのではないでしょうか。それが僧侶への尊敬に現れているように思えます。いったい何人の僧侶がそれに応えられるのでしょうか。慙愧に堪えません。 

石川恒彦

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