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隠居からの手紙

表紙隠居からの手紙バックナンバーもくじ > 平成26年8月

ウサギさんありがとう

  スコットランドを、一ヶ月ほど、旅行しました。旅の終わりに豪華な食事をしようと、知人によい店を探してもらいました。グラスゴウの郊外、フィントレイにある、Culcreuch城のレストランの評判がいいということです。電話で予約を入れると、ネクタイを締めてくるように言われました。タクシーを10ポンドの約束で呼びました。 タクシーといっても、日本のやつや、あるいはロンドンのやつとは違い、堅牢第一のワンボックスカーでした。

  イギリスの田舎道は、たいてい気持ちのよいものです。緑の牧場、大小の湖に川、高速道路を外れれば、道幅はごく狭くなりますが、対向車にはほとんど会いません。集落を通ると、空気がきれいなせいか、家々の窓ガラスが光っています。

  フィントレイの町には入らずに道をそのまま進むと、城へ続く道に出会います。そこを曲がると、左手に湖があります。湖を含めて、1,600acre(640ヘクタール)の敷地に、小ぶりな城、城というより館が建っています。前は芝生の広場、周りは深い森になっています。少し散歩をして見ると、羊の牧場もありました。館の左手を行くと、昔の牢屋をバーに改造した部屋があると看板が出ていました。イギリスでは、まずバーで一杯やり、ころ合いを見計らって、食堂に行くのがしゃれているようですが、私達は、すぐに食事を取ることにしました。

  扉を押して入ると、古い家具が置いてあるホール、階上に案内されると、大きな食堂。部屋は立派ですが、なぜか、テーブルは小さく、グラグラしています。知人たちはビール、私たちはワインを注文。ここのビールはおいしいらしく、何度もお代りをしていました。私は、前菜にシカ肉の燻製、主菜は24時間たれをかけたという牛肉、食後はチーズとポートワインにしました。

  給仕がやってきて、コーヒーは別室でどうぞというので付いて行きました。立派な部屋で、コーヒーや紅茶がそれぞれに行きわたり、ゆっくりしました。また給仕がやってきて、お城の自慢を始めました。

  「この城は、英国幽霊協会から、英国第一の呪われた城と認定されました。」  イギリス人は幽霊好きなようです。観光地には幽霊ツアーがあるし、幽霊研究の団体もいくつもあるようです。彼らは『科学的』調査を行っています。この城は、ガルブレイズ一家という血なまぐさいので有名な領主の持ち物だったそうで、いろいろ怨念が込められているようです。

  料理はうまいし、雰囲気もいいし、今度機会があったら泊って見たいと言っていた女房の顔色が変わりました。部屋を見せて貰おうという計画は中止になりました。もう先ほどのタクシーが迎えに来るころだと、ホールに降りました。

  ところが、タクシーがなかなかやって来ません。受付の婦人に聞くと、タクシーが約束を破って迎えに来ないことはよくあると言います。しょうがないので、別のタクシーを頼んでもらいました。やがて来た、これまた頑丈な車に乗り込みましたが、お化け騒動のせいか、飲みすぎのせいか、料金の交渉を忘れました。  昼間が長いスコットランドもさすがに暗くなっていました。気が付くと、一羽のウサギがライトの中、車の前を走っています。減速すると減速します。加速すると全力で走り始めます。車を止めると、車体の下に入ります。何度かそれを繰り返した後、あきらめた運転手は、ゆっくりとウサギのあとを追いかけました。やがて、人家のある明るい所に来ると、ウサギは、スーッと消えました。

  宿に着くと、17ポンドを請求されました。随分ぼるなと思いましたが、言うとおりに払いました。 建物の中に入り、ロビーでくつろいでいると、先ほどの運転手が戻ってきました。17ポンドは貰いすぎだと言って、5ポンドを返してくれました。 彼、もしかしたら、あのウサギに会ったのでしょうか。

石川恒彦

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