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隠居からの手紙

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旅行と食事

   知らない土地で、思いがけなく、おいしいものを食べられると、幸せな気持ちになります。今は、有名なチェーン店がどこにもありますので、そういう所に入れば、そこそこのものが食べられます。しかし、せっかく遠くに来たのだから、普段とは違うものを食べたいとなると、なかなか大変です。通りをぶらっと歩いて、よさそうな店に入ると、失敗することがよくあります。

  いきおい、観光案内所や観光案内書を頼ります。ところが、そこで推薦された店に行くと、観光客でいっぱい、土地の人は誰もいなくて、何となくがっかりします。その土地に知り合いがいると、よい店を教えてくれます。困ったことに、そこに住む人は、土地の料理店ではなく、都会風、外国風の店を好んで教えてくれる傾向があります。外国に行った時、うまい店だと言って高級すし店に連れて行かれたことがありましたが、日本の回転ずしの方が、よっぽどおいしいと感じました。

  先日、スコットランドへ行きました。スコットランドは、人は親切だが、料理はあのイギリスよりまずいという評判です。そんなことは無く、人が親切なのは確かだが、料理もなかなかです。ただ、変化に乏しいように感じました。牛も、豚も、ヒツジも、魚も、皆同じ味付けです。ハギスという羊の内臓を玉ねぎなどと混ぜて、羊の胃袋に入れて、数時間茹でた料理を食べましたが、苦く塩辛い以外は、特別の味付けとは思えませんでした。野菜は乏しく、話しによると、一生野菜を食べない人もいるようです。小学校の先生と会食した時、アスパラガスを、生まれて初めて食べたと言っていました。

  量は豊かです。高級ホテルでも、民宿でも、FULL SCOTTISH BREAKFAST(スコットランド風完全朝食)という料理がメニューに載っています。注文すると、まず壁際にあるテーブルに案内されます。ジュース、果物、ヨーグルト、牛乳、コーンフレーク、ウィータビックス(砂糖の入っていないおこし?牛乳につけて食べる)。好きなものを取ってテーブルに戻ります。コーヒーか紅茶が用意されています。やがて、熱いポリッジ(西洋粥)が運ばれます。バター、牛乳、それによくわからないトッピングを適当にかけて食べます。トーストも付いています。バターの大きな塊、マーマレード、はちみつ。たっぷりつけて食べます。ああ腹一杯とコーヒーを飲んでいると、本番がやってきます。

  大きな皿に、ベーコン、ソーセージ、炒めたマッシュルーム、熱いトマト、卵焼き、ポテトスコーン(マッシュポテトと小麦粉を混ぜて焼いたパン)、煮豆(あまくない)、そして豚の血で作った真っ黒なプリンが載っています。完食すれば、もう一日何も食べなくて平気です。とても毎日食べる気になりません。よく聞くと、スコットランドの人も、これら全部を毎日食べているわけではないそうです。完全朝食は旅行客用で、土地の人は、普通毎朝、グリルで肉、黒プリン、トマトを焼き、フライパンで卵とポテトスコーンを料理して食べていると聞きました。ポリッジだけという人も少なくないようです。

  私と妻は、大きな朝ごはんを食べた時には、遅い昼食はコーヒーに一杯の「今日のスープ」を半分ずつ、夜はビールにサンドイッチを半分ずつ食べました。サンドイッチも大きくて、コッペパンに肉や魚がはさんであります。フライドポテトが付いていますが、それを食べてしまうとおなかが破裂してしまいそうになります。料理屋も心得ていて、半分ずつ食べると言うと、お皿を余分に持ってきてくれます。

  旅行客には大きな朝食は悪くありません。普通に朝食を済ませた朝は、観光に出る時から、今日の昼食は何にしようかと気になります。旅館で教えてもらった名店に、ランチタイムがあるなどと聞きますと、見物をはしょって駆け付ける時もあります。それが、昼はスープ、夜はサンドイッチなら、店を選ぶということもありません。行き当たりばったりであまり失敗はしません。気ままな旅を楽しめます。

  ところがそういう日を何日か過ごしたあと、何となく侘しくなり、ちゃんとした食事がしたくなりました。贅沢というより、やはり食事は、旅の大切な一部なんですね。幸い、スコットランでも人を幸せにできる店に入れました。思いがけなくと言っては、スコットランド人に失礼ですね。 

石川恒彦

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