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隠居からの手紙

表紙隠居からの手紙バックナンバーもくじ > 平成25年8月

子孫に美田を

   近所の家の前にトラックが並び、畳や、窓枠や、家具を運び出し始めました。いい家だったのに、壊すのはもったいないなと眺めていました。ところが家は壊されずに、大改修が始まりました。近ごろ珍しいことです。

  日本の家の寿命は30年と言われます。外国に行くと百年以上もたった家に人が住んでいます。ヨーロッパは戦乱が続き、多くの家が破壊されましたが、修復して住む人もいれば、残った頑丈な家に住む人もいたと言います。戦後に建てられた建物も堅牢第一という印象を受けます。

  日本の家の寿命が短いのは、第一に、戦後復興期に建てられた建物が軟弱だったのでしょう。また、生活様式が激変して、畳の生活から、椅子の生活に変わりました。どうせお金をかけるなら、改修より、建て替えを選択する人が多いのでしょう。さらに、日本では、趣味にあった建物を建てる人や、その時の家族構成に会った家を建てる人が多いようです。時がたつと住みにくくなり、売ろうにも買い手が無いという状態になります。欧米人は、家を建てる時、将来売れる家を目指すと言われます。

  農村に行くと、今でも大きな古い家が残っています。また最近建てられたと思える立派な木造住宅があります。どちらにも人が住んでいる気配が無い時があります。脇に小さな今風の家を建てて暮らしているか、一家をあげて都会に行ってしまっているのだそうです。

  都会の人間が、そういう空き家を買おうとしても難しいそうです。持ち主の愛着や、農業にかかわるもろもろの法律や習慣が、自由な売買を阻んでいるようです。改修を加えれば、快適に過ごせるだろう家が、自然に朽ちるのを待っているのです。

  家は固定資産と言われます。30年しか持たないものは消耗品ではないでしょうか。作っては壊し、作っては壊しでは、おカネが動き、表面上の活気はあります。しかし、資産を作ることにはなりません。ヨーロッパの人々の収入は、日本人と変わりません。それでも我々よりも豊かな生活をしているように見えるのは、資産の蓄積があるからではないでしょうか。

  私達は、当座の問題を器用に解決するのに勝れています。空き地があれば家を建て、交通渋滞が起これば、高い補償金を払って道路を新設します。入り組んだ路地の地下に、芸術的に水道管や下水道管を敷設します。しかし、それは長期的な必要を満たしません。おかげで、道路はしょっちゅう掘り返されています。今月は水道、来月はガス、その次は下水道。道路も消耗品のようです。その間、家もしょっちゅう建て替えられています。

  老人福祉にお金がかかると言います。新たに施設を作り、職員を雇わねばならないからです。十分な広さのある家があれば、老人と一緒に住むのは、さして困難ではありません。大きな屋敷であれば、改造して介護施設にすることもできます。二世代住宅というのがありますが、多くは、入り口も台所も別で、一緒に住むという感覚はありません。私に言わせれば、これは、住宅が欲しい若い夫婦と、子供のそばに住みたい親の、当座の妥協の産物です。親が死んで、力があれば、建て直すことになります。堅固な家の売買が盛んになれば、多くの課題が克服されます。

  長持ちする家を建てたいものですが、根本は都市計画でしょう。無秩序に家が建てられた都市も農村も雑然としています。国土が狭いと言いますが、無駄に土地を使っているので、一層狭くしています。

  大震災の後、高台移転が話題に登っています。低地は、津波だけでなく、地震そのものにも弱い所が沢山あります。この際、堅固な高台に、魅力的な都市計画を立てて、東京の下町のような低地にすむ人々に長持ちのする家を作ってもらうよう誘導できないでしょうか。

  子孫に美田を残さずと言いますが、自分の子孫ではなく、日本の子孫に美田を残すのは、大切な事だと思います。

石川恒彦

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