表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > (平成25年3月)
強い日本農業は私たちの永年の目標でした。おそらく日本の工業化が始まって以来のことでしょう。しかし、一向に日本の農業は強くなりません。貿易の自由化が計画されるごとに、日本の農業はつぶれてしまうと叫びがあがります。
農業は特別です。アメリカのように有力な農業国でも、農業は政府からいろいろな名目で援助を受けています。人間は食べなければなりません。食料が無くなることに、人間は本能的に恐れを抱きます。少しでも安定した状態に農業を置きたいのです。
食料自給率が4割を切ったといわれると我々はびっくりします。少しでも自給率を上げようと予算をつぎ込んでいます。どうもうまくいきません。狭い耕地と巨大な人口の日本には無理なのです 。
発想を転換することができないでしょうか。食料自給率の低下を心配しないでいい制度を作り、人材を引き付けられる豊かな農業を作っていくことが大切だと思います。ささやかな提案があります。
<備蓄の整備>
コメの輸入関税をゼロにします。その代わり、輸入業者には、2年分のコメの備蓄を義務づけます。つまり、ある年に1トンのコメを輸入したい輸入業者は、2トンのコメを備蓄しなければなりません。3年を過ぎた備蓄米はバイオ燃料化が強制されます。
輸入米の値段は、日本産米と変わらぬ値段になるでしょう。しかも不作の年にはそれを取り崩して、食いつなぐことができます。世界的な不作が続くと見れば、新たに開墾する時間ができますし、味は悪いが収量の多い品種に切り替えることもできます。
<農地の保存と統合>
農地の転用はもっと厳しくしなければなりません。可耕地にある建造物は、近くの丘に集団で移転するくらいの計画が必要です。平野部には農機小屋があるだけという景色が理想です。
戦後の農地法は富農の出現を抑えるようにできているようです。しかし時代は変わりました。法律を改正して、農地の買収をもっと自由にすべきです。300平米以下の耕地を耕す‘農家’は、都会で日曜菜園を営む人と同様‘趣味の農業’として扱うべきです。相続制度も耕地の拡大の妨げとなっています。都会に出て法律に従い相続を受ける兄弟姉妹は、現金で相続分を受け取る制度が必要です。
<荘園の復活>
生産性の低い中山間地では、村が無くなる場合も出てくるでしょう。そういう時、一村全部を都会の金持ちに売るのはどうでしょう。外国では都会で成功した人が地方に農場を持ちたがります。日本では制度と習慣がそれを阻んで来ました。新しい不在地主は、農業以外に土地を使う事は出来ません。水路や山林の手入れも義務です。そこで農地を小作に出すか、農業会社に耕作委託することになります。昔と違って、農地からの収入はほとんど望めないでしょう。むしろ持ち出しになるかもしれません。
しかし、広い緑が自分のものになります。豪壮な家に住めます。釣りや、乗馬や、きのこ採りが自由に楽しめます。新しい殿様の出現です。
石川恒彦