表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 変な友情(平成24年2月)
先日、Aさんから、相談したい事があるので、住職の都合のいい時間を教えてほしいと、電話がありました。
改めて何だと思っていますと、約束の時間に娘さんと一緒に来山されました。
「ご存知のように、私には娘が二人いますが、息子はいません。
一人は長男の所に嫁いでいますが、この子は次男と結婚しました。私の所は男がいませんので、私達夫婦が亡くなると、墓の面倒をみる者がいません。そこでご相談なのですが、この子に墓を継がせたいと思っています。私達が生きている間は、A家の墓ですが、死んだら、娘の姓のB家の墓となると思います。そういうことは可能でしょうか?」
最近よくある話です。お寺によってはそれを嫌う所もあるようですが、私の寺では、墓が無縁となるよりはいいと、姓の違う方が墓を継いでいくことに反対しません。ただ、墓を財産とだけ考えて後を継ぎ、寺や墓に疎遠となるような人には、ご遠慮願うよう気を付けています。
Aさんはお墓参りに熱心なかたとして知られています。旅行や仕事で都合がつかない日を除いて、毎日、時間を見つけてはお参りに来られます。Aさんは、早くに父親を亡くされ、若い頃は大変苦労されたようです。
お墓参りが唯一の心の洗濯の時間で、そこで力を得て、成長されたのだと思われます。
「Aさんほどにはできないでしょうが、しっかりお参りしてくれなければ困りますよ」と、話しますと、
「父親の姿を見て育ったせいか、私も良くお参りしています」と、答えられました。
そこから、Aさん達の墓参りにまつわる、ちょっと変な話が浮かびあがりました。
Aさんの父上はお酒とたばこが好きだったのでしょう。
一合瓶の栓を開け、煙草に火を付けて供えるのが、Aさん流の墓参りです。
ある日、酒とたばこを供えた後、少し時間があるので掃除をしようと、道具を水場まで取りに行き、戻りました。すると男が二人、先ほど供えた酒を飲もうとしています。
「ちょっと待って下さい。その酒は、今あげたばかりです。掃除をする間、10分だけ待って下さい。」
お墓にあげた酒を飲む人がいる事は、Aさん十分承知していました。
それも供養と納得していましたが、あげた酒をすぐに飲まれてはいやだと思ったそうです。
お墓中を回って、お酒を探し、片っぱしから飲んで、悪酔いする人がいます。
お寺では、必ずお酒をお墓に撒くように、檀家の方にお願いしているのですが、Aさんのようなかたがいますので、なかなか徹底しません。
Aさんがお墓を掃除している間に、二人の男はいなくなりました。
あくる日からも、Aさんはお酒とたばこをあげ続けました。雨の日以外は、お酒が無くなっていました。
ある日、娘さんがお墓参りをすると、見知らぬ男が二人、お墓を掃除しています。
父親の知り合いかと思って、挨拶しました。二人は曖昧な挨拶をして、いなくなりました。
Aさんの家に行った時、そのことを話しますと、心当たりがないと言われました。
別の日、Aさんが拝んでいると、何か後ろに人の気配を感じがしました。
振り返るとあの二人が一緒に拝んでいます。お墓に目を戻し、礼拝を終えて、後ろを向くと、もう二人はいませんでした。
「そこでハッと気が付きました。最近お墓がきれいなんですよ。
毎日お墓参りをしますが、毎日掃除をするわけではありません。
吸殻がたまると、掃除をしていたのですが、この頃、吸殻がたまりません。
落ち葉も落ちていません。あの二人が掃除してくれていたんですね。」
目下のAさん父娘の悩みは、お酒を二本にするかどうかだそうです。
娘さんが墓を継いで、墓標の姓が変わっても、反対する理由は何もありません。
石川恒彦