表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 池の水(平成24年12月)
犬や猫を飼っている人は、旅行に出るのが大変だと聞きます。私は池に鯉を飼っています。
短い旅行なら心配しませんが、長い旅行に出る時は気になります。餌を頼んでおいた人がちゃんとやってくれているだろうか、やりすぎないだろうか、落ち葉をまめに掬っているだろうか。
先日、海外旅行をした時には、もう一つ心配が加わりました。去年の3月11日の地震で、コンクリートの池の石組がずれたようで、それ以来、池の水漏れが止まりません。専門業者に見て貰い、水をすべて抜いて、高圧洗浄できれいに洗った後、隙間と思えるところに、水漏れ防止の接着剤を詰めました。
うまくいかなかったので、もう一回やってもらいました。やはりだめでした。業者が奥の手として勧めたのが、米ぬかを撒くことでした。3升程の糠を水に混ぜると、確かに水漏れが止まりました。糠が目に見えない小さな穴をふさいだようでした。ところが効果は1週間程度、また水漏れが始まります。何回か試みましたが、結局は同じ結果でした。
雨が降れば、ある程度戻りますが、どうしても水道で給水する事になってしまいました。夏に水源地に雨が降らず、ダムの水が減って来たというニュースを聞いた時は気をもみました。まさか、給水制限の最中に、鯉のために貴重な人間の水を使うわけにはいきません。
それで、旅行の最中は、ひそかに心配を抱いていました。何かの拍子に水が急激に減った時、留守のものが適切に対応してくれるだろうか。業者はすぐに来てくれるだろうか。
帰国して、すぐ池を見に行きました。なんと満々と水が張っています。これは水道水を入れっぱなしているなと思って、周囲を点検しましたが、そんな様子はありません。前日は雨だったというので、そのせいかと思いました。それが、あくる日も、あくる日も水が減りません。
池をよく見ると、底から側壁にかけて、苔が一杯に生えています。高圧洗浄で無くなっていた苔が再び生えてきたようです。どうも苔が接着材ではふさぎ切れなかった穴をふさいだようです。これはこれで、矛盾を抱えました。鯉をかう池はどうしても汚れますので、浄化装置を付けています。さらに2年に一回ぐらいは、水を抜いて掃除をしなければなりません。苔も取ります。また水漏れが復活するでしょう。今から気がかりです。
私のかっているお寺の鯉は、現在、8尾しかいませんが、皆、目の下80センチを超える立派なものです。毎年夏には、2尾か3尾、新潟の泥池に預けて、体調を整えさせるようにしています。帰ってくると、少し大きくなり、色つやも良くなっています。東京でも泥池を作って飼えばいいのでしょうが、水位が低いので深い池になります。鯉を鑑賞するには、階段状の池にしなければなりませんから、面積もいります。
そのうえ、水の浄化には大変な設備が必要です。そこで、私のやり方が一番いいと言われています。
さて昨日、私の留守中に、業者が預けておいた鯉を返しに来ました。
鯉を預かってくれる業者も池を直す業者も同じ人です。留守番のものに、鯉がよくなっているのを自慢し、池の水がいっぱいなのを見て、防水工事がうまくいったと満足して帰って行ったそうです。
石川恒彦