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隠居からの手紙

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公共の嘘

  誰でも嘘をつきます。冷蔵庫のケーキをつまみ食いした子供が口の周りにクリームを付けています。
母親の友達が来て、ケーキを出そうとすると一つ足りません。母親は子供の顔を見て、すぐに事態に気付きます。子供は黙っています。おじいさんおばあさんの家を訪ねた孫が、自分の家に帰りたくなく、自分の靴を隠します。自分を守るために、随分小さい時から、嘘を覚えます。

  嘘をつかなくてはならない時があると言います。公定歩合を変更するときは、直前まで、そのそぶりをも見せないのが、社会のためだそうです。一昔前までは、癌の患者に、癌であることを伝えませんでした。
患者に与える負の影響があまりに大きいからだと言われていました。
まことしやかに伝えられていた伝説によると、ある高僧が癌と診断されましたが、医者はそのことを伝えませんでした。変な感じを感じた高僧が、自分は修行を積んで、生死を越える事が出来た。
どうか本当の事を教えてくれと頼みました。それではと、医者が癌を告げると、高僧は気絶したというのです。癌が不治の病と言われていたころ、癌と真実を告げるのが嫌な医者達が作った話でしょう。

  義務としての嘘、保身のための嘘、真実を認めたくない嘘。嘘もいろいろです。

  今回の東京電力福島第一原子力発電所の事故では、随分沢山の嘘を聞きました。
まず、原子炉が絶対安全だというのは嘘でした。10mを越える津波は想定外だったというのも嘘でした。
何度も、巨大津波の可能性について会社は報告を受けていました。
ただ、いつ来るとも知れない津波のためにお金を使うのが嫌だっただけでした。炉心の融合が始まっても嘘をついていました。計測の間違いであってほしいと神頼みをして、貴重な時間を空費しました。ヘリコプターで水を撒いても効果が無い事は、文献上知られていました。
それでも何らかの効果があるかのように嘘をつきました。放射性物質がどのように広がるか、政府は知っていました。しかし、予想は出来ないと嘘をついていました。放射能の影響についても、つねに過小評価を発表していました。

  結局、真実が明るみに出ました。そうなって見ると、これらの嘘は、誰にも、何らの利益をもたらさなかった事がわかります。嘘をついた人々は、真実を告げれば、混乱が起こっただろうと言います。それこそ嘘の中の嘘です。何も分からず、行政の言うままに右往左往した結果、明日何をしたらいいか、明日何が出来るかわからなくなっているのです。真実を知って、行政の言うことを聞くか聞かないかも含めて、自分の判断で行動したなら、その結果をもっと自分に即して受け入れられたはずです。

  教育を受けた人々で作られた大衆社会では、公共の嘘は悲劇を呼びます。真実を共有することによってのみ、社会がうまく動くと思われます。

  福島の発電所は、まだ安定したわけではありません。これからどんな事が起こる可能性があるのか、わかる限り発表すべきです。また現状についても、正直な発表が待たれます。ずいぶん隠している事があるように感じられます。正確な知識により、非常時に備えたいものです。

  ケーキをつまみ食いした子供が、やがて、嘘をついてもなにもいい事が無いと気付くように、政府や会社といった法人も、嘘は損と気付いてほしいものです。 新年ですので、何か明るい話題をと考えていたのですが、どう書いても、今の私の気持ちにしっくりこなくて、結局、大震災・原発事故について書くことになってしまいました。不安な船出です。

石川恒彦

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