表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 漏水(平成23年9月)
池の水が漏れて困っています。もともとは泥池で、底が抜けていたのですが、池上という地名の如く、地下水が豊富で、一定の水位を保っていました。それが地下水が下がったのでしょう、安定した水位が保てなくなりました。
そこで30年ほど前、庭を改修した時に、コンクリートの池にしました。
コンクリートにしたからといって、水位が保たれるとは限りません。
学校のプールなどでも、水漏れはしょっちゅう起こります。特に、日本庭園の池のように、石や植栽のある非定形の池の場合はなおさらです。
作った初めから、どこからとなく水が漏れ、何度も補修工事をして、どうやら水位を保てるようになりました。
そこに、3月11日の大地震です。急に水漏れがひどくなりました。池工事の業者に電話すると、すぐに見に来てくれましたが、ここよりもっとひどい所があるので、少し待ってくれと言って、帰ってしまいました。
やっと工事が始まったのは8月になってからです。その間、池の鯉が可哀そうですから、毎日相当な量の水道水を足し水しました。水道局の検針員に水の使いすぎを注意されました。
組み立て式の水槽に鯉を移し、水を抜き、高圧水を池の壁面に吹き付けコケやごみを除きました。
慎重に壁面を調べると、何箇所か怪しい場所がありました。そこを丁寧に補修し始めました。私は家に入って仕事をしていましたが、夕方になると、業者が呼びに来ました。池には水が張られ、鯉が元気に泳いでいました。
業者が言うに、怪しい所は全部塞いだ、一か所ひどい所があったので、そこは特に注意して塞いでおいた。
今回は、ドイツ製の防水材を使った。もう大丈夫だと思う。
池の水が少し濁っているので、防水材の影響なのか聞くと、それは、米ぬかだということでした。
微細な穴に入ると、ぬかが分解して、何とかという物質に変わり、それが穴をふさぐのだそうです。
念のため明日の朝見に来ます、と言って、帰って行きました。ずいぶん自信ありげでした。
あくる朝、池に行くと、水が少なくなっています。業者はもう来ていて、首をひねっています。
池本体は大丈夫のはずだ、まわりの配管と機械に問題があるのかもしれないと言って、点検していきました。
それから一週間ほど、毎日池の様子を見に来て、なにかと手入れをしていましたが、どうしても水漏れが止まりません。
もちろん、前ほど、検針員に注意されるほどには、漏れていないのですが、完全ではありません。
もう少し様子を見てから、もう一度やるということで、ここのところ顔を見せなくなりました。
そこで、福島の原発事故を思い出しました。原子炉を冷やすための注水や、原子炉本体の漏水により、敷地内の溝が放射性物質を含む水で一杯になり、一部は海に流れ出しました。
現在は汚染された水を浄化して循環するようになりましたが、地下への漏水は止まらず、地下水を汚染しているようです。ここでも、原子炉や溝の、どこから漏っているのか特定できないようです。
特定できても、工事は難しいでしょう。放射線の危険ばかりではありません。
池の水さえ止められないのです。私の頼んだ業者は、大きな寺院や公共施設に出入りする、信用のおける業者です。
目に見える水でこうですから、目に見えない、汚染された気体を止めるのはもっと大変でしょう。
今も毎日、放射性物質を含む気体が、環境に吐き出されています。
いたずらに騒ぎ立てるつもりはありませんが、私達は、水漏れ対策といった、ごく初歩の技術も、まだ完全ではないと、肝に銘じておくべきでしょう。
石川恒彦