表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > かなわぬ祈り(平成23年10月)
9月11日の朝、お経をあげながら変な気持になりました。
大震災のあと、私の寺でも、義捐金を集めたり、救援活動に参加したりしました。
お寺の本務は、祈ることだと、朝勤の折、慰霊、救援、復興を願って、観音経を読み、祈願文も言上しました。
四十九日までは毎朝、それからは、毎月11日に勤めました。
文語調ですが、私の読んだ祈願文は次のようでした。原子力発電所と仮設住宅の条は、後から加えました。
別而回向し奉る所は 東日本大震災に遭遇 不幸命を落したる 諸精霊に回向し以て 冥福を祈る
仰ぎ願くば 諸精霊 白業縁起の宝土に於て 回向供養の法楽を受け 無始の重障を滅除し 親り
三世諸仏を見奉ることを得 妙法を聴受し 三因を開発し 法身 般若 解脱の三徳を資成し
此の宝乗に乗じて 普く法界に遊び 疾く道場に赴て 仏知見を開き 宝蓮華に座して等正覚を成ぜん
妙法経力即身成仏 以仏教門出三界苦 怖畏険道得涅槃楽
又祈る所は 行方不明の人々 幸い命に別条なくも 怪我病気を得た人々
避難所生活を余儀なくされた人々 仮設住宅に住む人々 日々の生活に不便不安を覚える人々
皆速やかに救護の手を得て 一日も早く健康で安穏なる日常を取り戻さん事を
また今 現地に於いて救護に尽くす人々 殊には原子力発電所に於いて惨劇の発生を懸命にとどめんとしている人々 後方に在って その努力に加勢している人々 皆 仏祖の加護と 日本国民世界市民の同情と感謝を力として所願成就せしめん事を
更には 早く復興に着手し 旧に勝る安全で美しい国土を取り戻さん事を
至心に願い奉る 仏祖三宝哀愍擁護 速やかに魔障の繋縛を断じて 一切円満
吉祥成就なさしめ給わん事を 如来秘密 神通之力 能破一切 不善之闇 諸余怨敵 皆疾摧滅
天下泰平 国土安穏 風雨和順 五穀豊穣 産業繁栄 商業繁盛 政治賢明 如風於空中 一切無障礙
願わくば この功徳を以て 普く一切に及ぼし 我らと衆生と皆ともに仏道を成ぜん
どうでしょう。私が変な気持になったことがおわかりいただけたでしょうか。
3月に始めた祈りが、9月になってもそのままとは。少しは進展しているのでしょう。
しかし、まだ先の見通しが立つ事態には至っていません。被災者の焦燥感は増すばかりでしょう。
原子力発電所事故の影響を心配する一般国民も同様でしょう。
私の祈りの最後にある「政治賢明」を心から祈ります。
石川恒彦