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隠居からの手紙

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自転車

  うちの女房は、自転車が大好きです。自動車の免許証を持っていますが、たいていの用は、自転車で済ませます。寒くても、雨が降っても、風が強く吹いても、かなり遠くても、自転車で飛び出していきます。

  数年前、和讃の講習会で、弘前に行った時、講習の合間に、レンタサイクルをして、弘前の町中を走ったことがあります。よっぽど楽しかったようで、暇が出来たら、レンタサイクルのある街を訪ね回りたいといっています。私は自転車に乗れませんので、一人で行くつもりなのでしょう。

  私の弟は、山に登っていました。ところが、最近病気が見つかり、山に登れなくなりました。登山をやめたら、太ってきて、医者に自転車を勧められました。凝るたちで、すっかり自転車にはまり、四台も自転車を持っているようです。使う場面で、最適な自転車は違うのだそうです。ママチャリもあって、近所の買い物に使います。彼のいわく,「ママチャリは、用のある時だけ乗る。後の三台は、平等にかわいがってあげねばならない」。

  四台にはそれぞれ、愛称が付いています。得々と、名前を説明してくれますが、全然興味が湧きません。妹たちも聞かされましたが、笑って聞き流したようです。

  うちの隠居のリハビリテーションの進み具合をチェックして、今後の計画を立てるため、月に一度、整形外科医が訪ねてきます。背はあまり高くはありませんが、がっちりした体格の方で、学生時代は、何かスポーツに打ち込んでいたといっていました。この先生も自転車好きで、高級そうな、スポーツタイプの自転車でやってきます。荷台がありませんから、診察用具を体につけてやってきます。おもなものは、背負い鞄に入っていますが、こまごまとしたものは、ポケットに入れてあります。診察が始まると、あちこちのポケットから、いろんなものが出てきます。隠居の容体より、そちらの方が気になるほどです。

  妹たちは介護の手伝いに来てくれます。整形の先生が来た時、聞いたそうです。「先生の自転車にも、何か名前が付いていますか?」 先生は嬉しそうに、ハイと答えました。名前を聞くと、急に恥ずかしそうで、とうとう教えてくれなかったそうです。先生が帰った後、お茶を飲みながら、名前の想像をして楽しみました。

  弟の自転車を見て、女房は、自分も一台欲しくなりました。女房が自転車旅行に興味を持っているのを知って、弟は本を買ってきてくれました。もちろん、自転車に乗ってです。誰か、大学の先生の自転車旅行体験記のようでした。女房は早速、読み始めました。弟は、あくる日も自転車でやってきました。

  女房が聞きます。「Mさん、自転車旅行はあんなに危険なのですか?」 どうやら大学の先生、しょっちゅう事故を起こしているようです。弟が自慢げに答えます。「そうですよ、すぐ30キロは出るし、サイクリング専用道は少なくて、自動車や歩行者とおんなじ道を走るんですからね。」 弟にとって、危険も楽しみの一部のようです。ところが女房は違います。

    「Mさん、やっぱりわたしは、ママチャリでいいわ。怪我はいやです。」

  弟は、かなりがっかりしました。どなたか、ママチャリも危険だと教えてくれませんか?そうすれば、引退後、私と汽車で旅行に行ってくれると思うのですが。

平成22年6月
石川恒彦

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