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隠居からの手紙

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ないものねだり

 選挙が近づいてきました。今度こそ政権の交代は間違いないでしょう。ところがその選挙公約を見ると、大きな期待は出来ないことに気が付きます。いってみれば、人気取りのバラマキです。政権を取ることが主眼で、日本の前途がいかに困難で、国民の多大な犠牲を必要としているかには全然ふれません。

  日本は経済的成功の結果、社会が大きく変わりました。また、日本に続いた、後発国の成功により、国際環境もがらっと変わりました。今までのやり方では、今後が心配なのは誰の目にも明らかです。現に今回の不況に対し、伝統的手法が通じなくなっているのを、我々は経験しつつあります。おそらく、政治も社会も産業も、思い切った変革を必要としています。その変革は大きな痛みを伴います。しかしその痛みの経験のあとには、再び輝く日々が待っていると、その方策を示すのが、政治家ではないでしょうか。

  十九世紀の初めにアメリカを旅したフランス人、トクヴィルは、 成功しつつあるアメリカの民主主義に考察を加え、その成功の源の一つを、建国の父達に求めました。建国の父達は、自由の価値を誰よりも尊び、自由のためにイギリスと戦い、独立を得ると、自由と民主主義を基本とする、アメリカ合衆国憲法を作りました。

  彼らは、国民が手に入れた自由を、民主主義制度の中で、思うままに使えば、その結果は国民自身に大きな災禍をもたらすことを恐れました。そこで,民衆の気分を直接に反映する立法府の決定を覆すことのできる、大きな権限を行政府の長に与え、彼を間接的に選ぶことにしたのです。人気ではなく信頼によって大統領が選ばれるよう配慮しました。信頼はどこから来るのでしょうか。それは指導者の道徳的力です。トクヴィルは道徳の支配無くして自由の支配を打ち立てることは出来ないと結論しました。

  税金は少ないに越したことはありません。その少ない税金で、困難に陥った銀行を救い、失業者には手当を出し、農民には給付金を、年寄りには年金を支給し、働く母子のために託児所を充実し、最新鋭の戦闘機を買う。現下の日本にはその余裕はありません。

  信頼できる指導者の下、犠牲をいとわず困難に立ち向かう時が迫っています。
  所得倍増計画で有名な池田勇人首相は、農民六割削減論も唱えました。所得倍増計画は大成功で、その後の高度成長をもたらしました。しかし、農民六割削減は、農民切り捨てと大不評で、結局、農業政策は大きくいじらず、現状のまま補助金を増額することになってしまいました。当時、農民は、1、196万人いましたが、現在は252万人です。もし、時代の趨勢を受け入れ、少ない農家で日本農業を運営する、痛みを伴う方策が採られていたら、現在のような、農業不振はなかったでしょう。

  日本の成功は、目先の利益より長期の利益を目指したことにあるといわれました。しかし今、私たちは、目先の利益だけに捕らわれている国民だと、政治家に見下されているように感じます。私たちには困難に立ち向かう勇気がないと考えるのは短慮です。必要なのは現実を率直に語り、道を示す、道徳的に信頼できる政治家です。彼らとなら、わたくしたちは苦しい道を選択できるのではないでしょうか。 

平成21月8月
石川恒彦

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