表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 老化(令和6年7月)
アメリカのバイデン大統領は、私よりちょうど二歳年下です。トランプ前大統領とのテレビ討論会での彼の姿は、まるで私を見ているような気がしました。
まず、おぼつかない足取りで登壇しました。私が「年を取ったな」と、感じたのは、街を歩いていて、若い人たちにどんどん追い越されるようになってでした。歩みが遅いだけではありません。気をつけて歩かないと、躓いたり、真っすぐ進めなくなってきました。
バイデン氏は最初の発言で口ごもりました。これもよくあることです。話したいことは頭の中でしっかりしているつもりなのに、いざ言葉を出そうとすると、最初の言葉が見つかりません。「今日は雨になると天気予報で言っているよ」と、言おうとして、なぜか「雨」が頭に浮かび、「違う」と思ったとたんにしどろもどろになります。
声が小さくなったのも老化ですね。私も若いころからお経をあげて、それなりに大きな声が出たと思うのですが、最近はつぶやくような声になってしまいました。悪いことにちゃんと声がでるときもあるので、大切な時に小さな声になって、当惑します。
変な時に声を荒げるのも経験します。私の場合いけないのは電話セールスです。こちらは耳が遠くなって、ゆっくり話してくれないとよく聞き取れないのに、たいてい早口でたたみかけるように話してきます。相手にその気持ちはないのでしょうが、なんだか年寄りを馬鹿にして、何かを売りつけようとしているように感じられます。つい声を荒げて、電話をガチャンと切ります。おそらく私は、「カスハラじじい」と、セールス協会のコンピューターに登録されているでしょう。
私は、年寄りを自覚しています。元気な人に手伝ってもらわなくては、いろいろのことが出来なくなっていることもわかっています。しかし、ハナから年寄り扱いをされるのも不愉快です。
例えばセルフレジです。最近のスーパーマーケットには自分で買った商品を自分で登録して、クレジットカードで支払うカウンターがあります。面白いので、時々使います。店によって、使い方が少しずつ違いますので、まず確認します。するといつの間にかに、店員が寄ってきて、1から使い方を教えてくれます。分かっていると思っても、親切からと思い、説明に任せます。ちょっと不愉快です。たび重なるので、近頃は「俺が色男だから女店員が寄ってくるんだ」と、考えることにしています。
しかし、実際には出来ると思ったことが出来ないことが多々あります。先日、駅のエレベーターに乗りました。扉が閉まりかけた時に、車椅子に乗った人がやってきました。扉を開けようとしたのですが、とっさに「開ける」のボタンが押せなくて、エレベーターは動き出してしまいました。
トランプ氏との討論に臨んだバイデン氏は、討論の始まる直前まで自信満々だったでしょう。しかし壇上に上がったとたんに思考停止に陥ったのだと思います。トランプ氏にあることないこと言い建てられても効果的に反論できませんでした。選挙から撤退すべきでしょうが、俺はまだやれると考えるのが老化です。
石川恒彦