表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > オッペンハイマー(令和6年5月)
映画「オッペンハイマー」を見てきました。アメリカの原爆開発の指揮を執った、オッペンハイマーは英雄でしたが、水爆開発には疑問を持ったので、政府機関から追放されてしまいました。なぜかれが水爆開発に反対するに至ったのでしょう。
人類は文明を発達させて、他の動物にはない繁栄を得ました。しかし、新しい変化が起こると、いいことばかりではありませんでした。初めは二足歩行でしょうか。直立して歩くようになったので、より大きな脳を肩に載せられるようになりました。そのおかげで他の動物より利口になりました。そのおかげで、人類は腰痛持ちになりました。
火の発見も人間の生活を快適にしました。火を通した肉は美味でした。寒さを防いでくれました。石器時代から土器時代になるには土を火で焼く技術が必至でした。しかし火は火事を起こし、家や林を燃やしました。火はまた一酸化炭素で中毒を起こしました。
言葉の発明は画期的でした。言葉を使って考え、それを他人に伝えられるようになりました。愛の言葉だけではありません。憎しみも言葉で伝えられるようになりました。人類は互いに助け合い諍い合うことにもなりました。自分という考えも浮かびました。それにより、自分は何なのか、他人、そしてこの世界は何なのか悩むようになったのです。
農業の発明は、人類文明の基礎を作ったといわれます。狩猟採集時代は不安定でした。木の実も動物もいつでも手に入るわけではありません。季節や場所によって沢山取れるときも、何日も腹をすかせる時もあったでしょう。何日分かを貯蔵することはあったでしょうが、長い期間というわけにはいかなかったでしょう。生きるために食料を探し続ける生活だったと想像されます。穀物を栽培することを知り、状況は一変しました。十分な量の穀物を得られれば、それを貯蔵することができました。特に寒い地方に移住した人々は、寒い冬に備えることができるようになったと思えます。
狩猟採集時代、沢山取れる人とそうでない人がいたでしょう。あるいは狩猟の指導者がいて彼は他人より多く獲物を手に入れたかもしれません。しかし獲得できる食料の量は限られていましたし、それを貯蔵することもできませんでした。貧富の差は目立ちませんでした。
ところが、農業が始まると、自然条件や技術で、沢山取れ沢山貯蔵できる人が出る一方、運悪く食べるのにやっと、あるいは足りない人も出たことでしょう。それが現代の貧富の差や階級の差につながる初めでした。
産業革命は水力で織機を動かすことから始まりました。それが化石燃料を燃やして動力を得るようになると、革命は急速に発展しました。しかし、その排気ガスは環境を汚染し、気候変動を起こしました。文明の発達はいいことばかりではないのです。
原子爆弾は原子核の持つエネルギーを開放する画期的な技術でした。核分裂を制御して多くの電気を得ることができるようになりました。水素爆弾は核を融合してエネルギーを得ます。制御できるようになれば、人類は無限のエネルギーを得られるようになるといわれます。オッペンハイマーは殺傷兵器水爆を恐れてだけでなく、この画期的な変化が文明に及ぼす力を心配したように思えました。
石川恒彦