表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 賀状あれこれ(令和6年2月)
孫の年賀状。①「私は昨年、部活動の試合で初めてヒットを打つことができました。今年はさらに多くのヒットを打つことを目標とし、頑張っていきます。」②「今年はサッカーのしあいで失点をへらしたいです」③「今年やきゅうで、しあいに出てヒットをうちたいです。」勉強を頑張ろうという孫は一人もいません。
郵便局の年賀状は年々売れ行きが悪くなっているそうです。年賀状を出す人が少なくなったのではなく、義理で出す年賀状が少なくなったのではないでしょうか。私のように年を取ると一層その気がします。
年賀状もいろいろです。たいていの年賀状は。宛名印刷です。本文もごく当たり前の決まりきった挨拶が印刷してあります。最近は絵入りのものも多いようです。そこに一言二言近況などを書き加えたのもあります。近況をびっしり書いて印刷する人もいます。そういう年賀状は、その人を思い出させます。まじめ一方の文だったり、どこか冷めた文章だったり。家族の写真を加えるのも流行のようです。たいてい本人の写真ではなく、子供や孫の写真です。家族円満を思わせます。
手書きの文章を印刷した賀状もあります。どこか心がこもっている印象を受けます。
「・・・・。私は満91歳、家内は87歳になりました。私のほうは一応元気なふりをしていますが実状は心身ともにボロボロガタガタです。家内のほうは自転車で走り回っております。・・・・」
喪中の挨拶を封書で受け取りました。これも手書きを印刷してありました。
「・・・・。私共の妻は若い時に大病を患いまして、ここまでは若さと気力で、喜怒哀楽を二人で味あいながらやってまいりました。しかし近年は自律もむづかしく、車椅子生活になりましたので、私が、勤めと菊作りをやめて、専業炊事軍曹を今日までやっていました。その間、私も不治の病を宣告されて治療を受け、最新医療のお陰で、現在は観察期間になって来ております。
病々の老々介護は大変なものがありましたが、最近ようやく煩わしさもなくなってきているとこでした。しかしついにというか妻は、・・・・
これからは喜怒哀楽の相手がいなくなったことですから、中抜きで喜楽に生きられたらと思っています。・・・・」
封筒には写真も入っていました。立派な菊の花の鉢の後ろに、丁寧に包まれた車椅子が写っていました。
宛名だけは手書きという人もいます。ところが、一人、達筆だった方のあて名書きが、ミミズの這っているような字になっていました。年ですね。寂しい限りです。
年寄りの手紙だけを紹介しましたが、若い方からの賀状もあります。人生上り坂の彼らは賀状に悩みを書くことはありません。それだけに、人生に正直になった晩年の友人たちの手紙は心を打つものがあります。
それにしても、うれしいのは、孫たちの年賀状です。
石川恒彦