表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 遊び階級(令和4年12月)
引退して10年を過ぎました。庭を綺麗に掃いたり、畑を手入れしたり、年相応に体を動かしています。コロナ禍で、碁を打つ機会は無くなりましたが、詰碁を説いて頭を使っているときも楽しいものです。勿論、お酒を飲んで、ぼやっとしているときも好きです。頭も体も衰えてきましたが、まだ何とか使えるのはありがたいことです。
寂しいのは、長年の友人たちが亡くなり、語り合える相手がいなくなってきたことです。私たちの世代は、戦中戦後の飢餓、高度経済成長、バブル経済、そして、失われた30年という大変浮き沈みの大きな時代を生きました。悪くはありませんでした。
残念なのは、次の世代に、希望の時代を残せなかったことでしょう。貧富の差が広がり、社会福祉は先細り、コンピューターの発達は、多くの仕事がなくなるのではないかともいわれています。
産業革命以来多くの職業が失われました。職を失った人たちは抵抗しました。有名なのは、ラッダイト運動でしょう。イギリスに自動織機が導入されたとき、それまで、手で布を織っていた職人たちが立ちあがり、自動織機を打ち壊しました。しかし産業革命の進展は止めることができませんでした。織工は職を失いましたが、経済が成長し、織工も新しい産業に吸収されていきました。
ところが、コンピューター革命では、そういうことは起こらないだろうと予想する人がいます。コンピューターは、本来人間の仕事と考えられていた仕事に侵入してきています。ロボットが考え判断できるようになったら、人間の仕事はどうなるのだろうというのです。
もともとどんな社会でも、全員が職に就けるというわけではありませんでした。常に一定数の失業者がいました。その数が増えるだろうという予測です。
中国では、共同富裕が叫ばれています。経済成長に伴い、貧富の格差が増大しています。共産主義の理想は、平等な社会でしたが、中央政府が計画して、それに従ってすべての国民を働かせようとしましたが、うまくいきませんでした。共同富裕という考えも、自由主義経済ではなく、強権的な計画経済に戻るなら、うまくいきそうにありません。それを冷笑する自由主義社会も、格差の拡大は大問題です。
自由主義も共産主義もうまくいかないなら、今考えられる最善の道は、手厚い福祉国家でしょう。格差の拡大に歯止めがかかる福祉国家は、社会が安定します。税金を払いたがらないお金持ちにもいい社会です。
もし人間の仕事が少なくなったら、人間社会は三つの階級に分かれるのではないでしょうか。貢ぐ階級、働く階級、遊ぶ階級です。貢ぐ階級の人は金儲けに専念し、儲けたお金の半分を税金で納めます。働く階級の人は、貢ぐ階級の人のために働きます。遊ぶ階級の人は、税金で遊びます。誰もが、25%の消費税を払います。
遊ぶ階級の人は、自分を卑下する必要はありません。彼らは、新しい階級社会の中で、必要な一員です。遊びに専念できる彼らの中から、すぐれた学者や役者、運動選手が現れるでしょう。新しい貴族階級の誕生です。
石川恒彦