表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 疑問(令和4年5月)
ロシアのウクライナ侵略は、分からないことだらけです。
まず、なぜロシアが戦争しなければならなかったかさっぱり分かりません。ウクライナが、西ヨーロッパと仲良くしすぎるのが危険だというのが公式の立場のようですが、ウクライナが、西洋の一員となっても、ロシアが損することは何もありません。核大国のロシアに小国ウクライナが攻め入るなどとは、とても考えられません。平和な隣人と仲良くできる利益のほうがうんと大きいように思えます。
ロシアの小説を読むと、ウクライナはたしかに、ロシア人の憧れの地です。日本人がハワイに憧れるような感じです。かといって、日本人がハワイを日本の領土に組み入れようなどとは思いません。自由で友好的な異国、ハワイが私たちをひきつけます。
キエフ大公国の後裔がロシアだから、ウクライナはロシアの一部だという主張もありますが、この地の歴史は複雑で、自分の都合のいいように何でも解釈することができるようです。
次の疑問は、中国です。誰の眼にも不当なロシアの侵略を非難しません。弱小国の味方を自称している中国がです。ウクライナが、西欧の一員になることにロシアが脅威を感じるのは理解できるといいます。ロシアも中国も広大な領土を持つ大国ですので、互いにその立場に共感を持っているともいわれます。もっとうがった見方では、潜在的な脅威であるロシアと、現下の競争相手である西欧が争って、どちらも力を弱めるのは、中国の利益になると、漁夫の利を狙っているというのもあります。
ウクライナに、沢山の地下シェルターがあるのにびっくりしました。おそらく、ウクライナがソ連邦の一部であったときに、西からの侵略に備えて作られたのでしょうが、それが、東からの侵略に抵抗する設備となっているのは皮肉です。マリウポリの製鉄所の地下シェルターは広大で、花壇まであるといわれていますが、ロシアは攻めあぐねているようです。ソ連時代につくられたのなら、弱点の分かる詳細な図面がロシアにないというのも不思議です。
日本はウクライナからの避難民を受け入れています。人道上当然のことでしょう。しかし、アフガニスタンやミャンマーからの避難民はどうしたのでしょう。そこに二重基準があるように思えます。これを機会に難民の受け入れ基準が緩くなるなら幸いというべきです。
ウクライナが侵略を受けたのは、その軍備が貧弱だったからともいわれます。ウクライナは、ソ連邦解体の折、保有していた核兵器を放棄しました。もし、現在も配備されていたなら、核大国ロシアといえども戦争を思いとどまっただろうというのです。核兵器の開発を進める、北朝鮮やイランの指導者にとって都合のいい見解です。日本でも一部の政治家が、これを好機と核武装を言い出しているようです。
しかしどうでしょう。核兵器は使ったら終わりの兵器です。むしろ注目すべきは、人口5000、一人当たりGDP95位の国が、軍事大国ロシアに善戦しているのです。これからは、むしろ、大国にとっても団結できる自由な国を侵略する危険を承知しなければならないでしょう。
石川恒彦