表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 護崖工事(令和4年4月)
案じていたように、サギ山を作っていたサギたちが、護崖工事の始まりと同時にいなくなりました。崖の工事は、ずいぶん慎重に行われています。まず、工事中に下の敷地に余計なものが滑り落ちないように囲いができ、次に、工事区間に仕切りを作りました。そして、崖を乗り降りできるように、階段状の足場ができました。すべて、サギ山の下で行われましたので、危険を感じたのでしょう、一羽一羽と毎日少なくなり、とうとう一羽もいなくなりました。
さぎ山をよく見上げていた人たちも、一羽もいなくなった山を、残念そうに見上げています。道からは、工事が始まったことが見えませんので、皆さん、どうしたんだろうといぶかっています。住民にとっては、フン害の恐れが無くなったので、歓迎したいところですが、サギの群れを見れなくなったのには、一抹の寂しさがあります。
工事は、土砂災害特別警戒区域の指定を解除するために行われています。説明を受けてもよく解らないのですが、崖下の土地の建築制限がなくなるわけではないようです。
工事は、ユニットネット工法によって行われます。鋼より線を50cm四方に加工して、それをジョイントでつなげるのだそうです。それを補強材と支圧板で固定して、斜面を保護するといいます。売りは、コンクリートで固めるのと違って、既存の樹木をあまり傷めず、あとから緑化も可能だということです。
しかし、よくよく聞けば、つつじや、アジサイは刈り取られるということで、少しがっかりしています。
この崖の植栽には思い入れがあります。ここは、本門寺の土地ですが、暗黙の了解を得て、クマザサの生い茂った崖に、若い頃より、徐々に花木を植えてきました。はじめは、紅葉の山にしようと、モミジやナナカマドを植えましたが、どうもうまくいきませんでした。いろいろ試して、行きついたのが、つつじとアジサイでした。
周りはアジサイ、中はつつじを植えました。春と秋に花を楽しめました。花木は、植えてから何年もたってから、見栄えが良くなります。今度新しい苗を植えるとしても、私の生きている間には、今までの美しさは、鑑賞できないなと、少し感傷的になっています。
それでも、ヤマザクラやケヤキなど、実生を見つけて大切に見守ってきた木は、充分に大きくなっていますので、切られずにすみそうで、ちょっと安どしています。
日本中、開発のために木が切り倒されて、緑が少なくなりました。新開地には、街路樹が植えられ、緑地も設けられていますが、どうも、無理に植えているようで、樹木本来の元気に欠けているところが多いように見受けられます。街路樹を剪定しているのをよく見かけますが、あんなに切り詰めなくてはならないのかと、いつも思います。もっと道路に余裕を持たせて、樹を思いきり大きくできないものでしょうか。
今回の工事は、安全のためですから、我慢しなければならないのでしょうが、花と緑がたっぷりの傾斜地になるのはいつのことでしょう。静かになって、シラサギが戻ることはあるのでしょうか。
石川恒彦