表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > さぎ山(令和4年2月)
我が家の後ろは、本門寺の台地で、崖になっています。その崖の一部は、椎の木が群生しています。
今年の元日に、本門寺にお参りして戻ると、大きな鳥が二羽、椎の木の上で、羽根を広げてバタバタしていました。季節外れに巣をつくるのかとみていました。珍しいので、二階の部屋に行き、カメラに望遠レンズを着け、三脚にのせて樹林を覗きました。すると、もういなくなっていました。多分カラスに追われたのだろうと思っていました。娘のはなしでは、それからもしばしばやってきているというので、カメラはそのままにしておきましたが、とうとうシャッターチャンスに恵まれませんでした。
それから数日して、道を歩いていますと、台地を見上げている人がいます。いました、我が家より東寄りの椎の木の上に数十羽のシラサギが止っていました。さぎ山です。話には聞いていましたが、初めて見ました。壮観です。
百科事典を引いてみました。サギの食料は生きた動物だけで、魚類、カエル、巻貝、甲殻類、昆虫類のほかに、ヘビ、トカゲ、ネズミ、小鳥、ひななどを食べます。従って、沼、湖、田んぼ、川、海辺など、水のある場所の近くの林や茂みに、集団で営巣するそうです。各地に残る地名でもそれがわかります。鷺浦、鷺島、鷺洲、鷺の浦、鷺の宮、等々。池上には確かに呑川が流れていますが、さぎ山ができたのは、最近では、初めてではないでしょうか。
呑川の水は、一時に比べると、だいぶ綺麗になり、魚も徐々に戻っています。カモや,鵜、カメなども泳ぐようになりました。おそらくどこかの営巣地から追われて、魚のいる川を見つけ、集団でやってきたのではないかと思われます。
それというのも、さぎは見る目には綺麗ですが、フン害がひどいのです。今回の営巣地の周りの家の屋根を見ると、真っ白になっているところがありますし、私の小さな菜園の白菜の葉にもやられてしまいました。お寺の池を見に行くと、周りが真っ白です。おそらく池の水にもフンを落としたのでしょうが、水に吸収されてしまったようです。幸いこの池の鯉は大きいので食べられなかったようです。まだ来たばかりでそのうえ冬ですので、気づきませんが、フンが積もると、ひどい悪臭だそうです。
もう一つ、サギが集団でやってきた理由は、前の営巣地が開発で林が切り倒されてしまったということも考えられます。実は、この崖地は、災害時に崩れる恐れがあると大田区から指定されていて、この春から、工事が始まることになっています。ちょうど卵を抱き始めるころに、椎の木の枝が切り落とされそうです。また、大急ぎで、営巣地を見つけなければならず、ちょっと気の毒です。
都会の人間は見知らぬ人を無視して生活しています。道行く人も、たいていやや下を向いて歩いています。池上でも上を見てサギ山に気が付く人はまれです。そこで声をかけてサギ山を教えたいというおせっかいな気持ちもあるのですが、うまくいきません。声をかけようとすると、何この年寄りは、という感じで、そそくさと行ってしまいます。何かの拍子に、一斉に首を伸ばし、同じ方向を見ているサギたちは、どう交流しているのでしょう。
石川恒彦