表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 気が緩む(令和4年1月)
弱ってきた私の連れ合いを見るため、短期ですが、娘が海外から帰ってきてくれました。ウイルス流行中ですので、羽田に着くとホテルに6日間隔離され、そのあと8日間自宅隔離となりました。わたしが面倒を見るわけにはいきませんので、長男夫婦が彼女を引き取ってくれました。3度の食事を扉の外に置いてくれ、その他のこまごました用事も、内線電話で頼んでやってもらったそうです。長男の嫁には頭が上がりません。
2週間の刑期が終わり、私たちの家にやってきました。明日からは、炊事洗濯掃除、なんでもやってくれるといってくれました。安心して眠り、明くる朝起きると、彼女はまだ起きていません。何のことはなく、私が、彼女の分も含めて、朝食を用意することになりました。
さすがに3日目からは、早く起きて、朝食の用意をしてくれるようになりました。掃除も洗濯もやってくれます。乱雑だった食器棚も整理してくれました。そうなると私の気が緩みました。
まず、朝、目が覚めなくなりました。太陽が昇るのが遅くなった影響もあるのでしょうが、早く目が覚めて困っていたのがウソのように眠りこけています。仏飯を整えて、お経をあげて戻ると朝食の用意ができています。天国です。
朝食が終わるころ水と薬を用意して、連れ合いに飲ませるのが、私の仕事でしたが、しょっちゅう忘れてしまいます。洗濯も娘がやってくれるはずですが、洗濯物を一まとめにするのを忘れてしまうので、しばしば自分で洗濯機に突っ込まなくてはなりません。そして、洗濯をしているのを忘れてしまうのです。連れ合いが、洗濯機が止まったよと教えてくれるはめになります。
ゴミ出しもダメです。ゴミ収集車が来る日を忘れたことなどなかったのですが、忘れてしまうのです。娘に一覧表を渡しました。
リハビリの方が来るときは、あらかじめ玄関のカギを開けておくのですが、それも忘れてしまいます。ドアホンが鳴ると、慌ててマスクを探して、鍵を開けに行く繰り返しです。マスクをつけるのを忘れて、宅急便の応対をするときもあります。
釣れ合いの状態は、要介護1で、大したことはありません。気楽に老老介護をやっているつもりでしたが、やはり少しは緊張していたのだと思います。もっと重度の方の介護をやっている方は大変だなと、実感しました。
誰でも一日中緊張をしているわけにはいきません。ゆっくりする時間も必要です。しかし家族が介護するときには、一日中どことなく緊張しているようです。いつ何が起こるのかわからないからです。テレビで西部劇を見ていて、撃ち合いが始まったとき、彼女から声がかかると、立ち上がらなければなりません。結構つらいものです。
航空会社から、娘に電話がありました。予約していた便が運航中止になったという知らせでした。コロナ禍で、旅客が減って、どの会社も飛行を間引いているようです。娘がいつ帰りの飛行機に乗れるかわからなくなりました。大いに同情しましたが、ひそかに長引けと思っています。
石川恒彦