表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 不本意な宣伝(平成19年6月)
私の花作りは、他人に見てもらおうとやっているわけではありません。ただ、花が綺麗に咲くと、どうしても他人に見てもらいたくなります。
今年の初め、広告会社の方が来て、私鉄沿線のスタンプラリーのパンフレットに、花の寺として、照栄院を紹介したいが、いいかと尋ねられました。ずいぶん長いことかかって、一年中花が咲いているように、努力してきましたので、思わず嬉しくなって、いいですよ、と答えました。
打ち合わせが進むと、首都圏の六つの私鉄から二ずつの駅を選んで、それぞれの駅の近くの寺社12個所を紹介するのだといいます。そして、漠然と花の寺社とするのではなく、各寺社の代表的な花を紹介する企画だとわかりました。
私の寺は、一年中花が咲いていますが、特にこれという自慢はありません。色々相談して、このスタンプラリーの期間中に開花が当たるし、数も多いから、アジサイとしようということになりました。
そして、アジサイの季節となり、ビックリしました。問い合わせが多いのです。中には、アジサイが好きで日本中の有名なアジサイ園を見たが、照栄院さんの名は初めて聞いた、花の最盛期はいつでしょう、と聞いてくるかたもいます。友人からは電話で、XX駅でもらったパンフレットに、きみの所の名が出てたが、そんなにすごいアジサイなのかとからかわれました。
アジサイを育て始めて数年、丈夫な花ですが、それなりの苦労があります。同じ色の花ばかりでは面白くないので、いろんな種類のアジサイを植えました。ところが、アジサイは環境を選び、同じ種類の花でも、階段の右と左で、色合いが違います。その上、背が高くなるもの、横に張るもの、こぢんまりしたものなど、姿形が皆違います。そこで、植え付けて二,三年、そのアジサイの特性がわかると、植え替えることにしています。植え替えると、しばしば、二,三年はまた花が着きません。また、植栽予定地に、全部植わったわけでもありません。まだ空き地が残っています。
そういうわけで、照栄院のアジサイは、まだ他人にお見せする段階にありません。ところが宣伝だけは先走ってしまいました。
アジサイは妙見坂の両側に咲いていますが、どうも、坂に近寄るのが、億劫です。幸い、水やりを手伝ってくれている人が、みんな綺麗だといってますよ、と教えてくれます。それでも、私は心の中で、あと数年たてばな、遠い所からわざわざ来た方もいるだろうに、すまないことをしたな、と頭を下げています。
石川恒彦