表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 正直(平成18年3月)
檀家のかたから面白い話を聞きました。まるでイソップ物語です。
最近、大阪でこのかたの取引先の問屋が相次いで二軒倒産しました。片方の問屋の主人はなかなかの人格者で、商売も堅実一途の人でした。しかし、平成不景気で、銀行から運転資金が借りられなくなりました。彼が取引先、友人、従業員、親戚等につなぎのお金を頼むと、誰もが二つ返事で応じてくれました。
もう一方の主人は、どちらかというとアクの強い、はったり屋でした。彼のほうも資金に詰まって、八方借金を頼みましたが、誰も貸してくれませんでした。
ところが、両社とも倒産しました。はったり問屋はともかく、堅実問屋も予想以上に内容が悪かったのです。
はったり問屋が倒産して迷惑を掛けたのは、取引先など、限られた範囲でした。それに対して、堅実問屋にお金を貸した人達は広範囲でした。なかには道連れ倒産した人も出ました。
檀家のかたのいわく、「結局、堅実だという信用で金を借りたが、内実を正直に公開しなかったから、沢山の人に迷惑を掛けてしまった。ウソをついたんですよ。彼も寝覚めが悪いと思いますよ」。
石川恒彦