表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > ブラックバス(平成17年3月)
奇妙な二重基準があります。私達は、なるべく在来の生態を守ろうとして、自然状態での、動植物の交雑を避けようとしています。日本猿の生息地に、台湾猿を放さないようにします。湖沼に放たれた、釣り人のための、外来のブラックバスなどを駆除しようとします。
ところが、人間世界ではそうではありません。日本人と外国人との結婚禁止を叫ぶ人はいません。純粋の日本人や、純粋のドイツ人を守ろうなどと言ったら、人種差別だと言われて、世界中から指弾されます
ちょっと前までは違っていました。動植物の交雑は、自然にせよ人工的にせよ、むしろ奨励されていました。そこから、人間に役立つ新種を見つけるのが、多くの学者の仕事でした。逆に、人種を越えての結婚は多くの社会で禁忌でした。今でも、孫が外国人と結婚すると聞いたら、すっかり落胆する年寄りが沢山います。
ずいぶん人間は勝手です。それもこれも、その時々で、自分たちの生存に最適と思う行動を取ろうとしたのでしょう。交通通信が発達して、世界が狭くなり、ようやく「人類」という観念が実感されるようになって、環境を保存しよう、人種を越えて協力しようという気運が高まってきたのです。
生態系の保存を声高に叫ぶ人は、それも人類が環境を支配しようとする一形態だということをよく認識しなければならないと思うのです。その認識の根底には生命への畏敬があるはずです。
ブラックバスについていうなら、遠くない将来に、スポーツ・フィッシングやスポーツ・ハンティングはなくなると期待しています。
石川恒彦