表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 福祉制度の利用(最新号 令和7年9月)
現役のころ、家族に介護を必要とする人とお話しする機会が時々ありました。そういう時、私は、国の福祉制度を目いっぱい使うよう勧めました。意外に多くの方が、体裁が悪いとか、手続きが面倒だとか言って、福祉制度を利用していないようでした。
隠居して数年たったころ、妻の様子がおかしくなりました。初めは歩いているときによろつくようになり、やがて転ぶことが多くなりました。言葉もうまく出なくなり、人付き合いを避けるようにもなりました。
近所の医者にかかっていましたが、一向に良くならないので、大学病院を紹介してくれました。大学病院の先生も、すぐには診断がつかないようで、何回か通うことになりました。
そのころまで、家事はなんとかやっていましたが、そろそろ手伝いが必要と感じられるようになり、福祉事務所に電話すると、地域包括支援センターで相談しなさいと教えられました。
それからが大変でした。支援センターから来たという女性が二人インターホンを鳴らしました。上がってもらい、名刺を見ると、福祉業者でした。役所は地域包括支援センターという民間団体に業務を委託し、支援センターは福祉業者を紹介するという構図でした。彼女たちの話を聞いても、私たちの希望と、微妙にずれていました。ようよう聞き出したのは、介護認定を受ける必要があるということでした。
支援センターで書類をもらい、医師の診断書などを添えて、支援センターに提出しました。少したつと役所から依頼されたという人が来て、妻の様子を見て行きました。数日して役所から手紙が来ました。要支援1に認定されていました。これは要支援1,2,要介護1,2,3,4,5とある7段階の一番下で、ほとんど支援を受けられません。判定する人が来たとき、妻は元気なところを見せようと頑張ったので、判定が低かったように思えました。
判定は毎年更新され、あくる年には要介護2とされました。こうなるとケアマネージャーの出番です。支援センターから紹介されていたケアマネージャーは親切で有能、こちらの希望に沿ったケアプランを作ってくれました。
妻の病状は進み、次の年には、とうとう要介護5になってしまいました。同時に大学病院の先生の診断もつき、私にはどうしても覚えられない長い名前の難病でした。公的補助が受けられるというので、役所に申請しました。今までの経験から、年寄りには無理なので、息子の嫁に手続きを頼みました。
日本の公的介護サ-ビスはかなり充実しています。医療、リハビリ、デイサービス、介護用品など、少ない費用で利用できます。しかしそれを利用するには、知識と煩雑な手続きが必要です。もう少し簡明にならないのかとおもいます。
さらに問題は、人手不足で受けられるはずのサービスが受けられないことがあることです。仕事の大切さに比べて、介護要員に対する待遇は高いものではないと聞きます。国民一律に何万円かをばらまくといいます。それよりこちらと利益を受ける一人として叫びたい思いです。
石川恒彦