表紙 > 住職より > 平成29年7月
お盆の時期、僧侶が檀家さんの家を回って読経回向する棚経が行われます。お盆に限らずに毎月お経回りをする地域もありますが、衣を着た僧侶の町中人口が激増する夏こそが、旬の風景と言えるでしょう。
当山の場合は七月十三日からの三日間、お手伝いして下さるお坊さんと手分けをして回っています。車・原付・自転車・徒歩を組み合わせて移動します。私は遠方を担当していますが、一日中運転をして時々棚経をする、という感覚の日もあります。お経の後、出して頂いたお茶を頂きながらご家族の動向などを伺います。各家に二十分から三十分程度いさせて頂いています。
昔からの集落がそのまま残っている土地では、丸ごと全部その寺院の檀家である場合があり、文字通り数珠つなぎに各家庭を徒歩で回ります。ひどく効率が良いものですから、一日に五十軒以上回る事が出来ます。
以前、八月盆のお手伝いで海沿いの町を回らせて頂いた事があります。住職の奥様が案内人として付き添って下さり、地図もなく何軒回るかも分からぬままお寺を出発します。「はいここ鈴木さん」「次はここ佐藤さん」と、玄関を指差されるがままに次々と回ります。各家では隣のお経が聞こえたら仏壇の灯明に火を入れて待っていてくれます。一時間毎くらいに休憩を担当する檀家さんの家が決まっているようで、「はい、一息ついて下さい」と言われ、その家の居間で水分を頂きます。昼食休憩を挟んだ午前と午後にこれを繰り返すと、一日に五十軒から六十軒になります。
外で日傘をさして待っていて下さる奥様の姿、潮風の香り、昼食休憩のお寿司と昼寝、容赦なく照り付ける陽射し。今でも鮮明に覚えています。
それぞれの地域にそれぞれの回り方があります。どれも良いものに思えます。
石川龍彦